2017 Fiscal Year Research-status Report
スピンゼーベック効果の微視的理解とその可視化に関する理論研究
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15K05151
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
安立 裕人 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10397903)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スピンゼーベック効果 / スピン流 / 熱流 / マグノン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題で対象とするのは、磁性体内の温度勾配から磁気の流れであるスピン流を作り出す「スピンゼーベック効果」と呼ばれる現象である。スピンゼーベック効果は2008年に日本でその存在が発見された新しい現象であるが、その発見から今日に至るまで、簡便なスピン流の生成手法として大変大きな注目を集めている。 平成29年度は、このスピンゼーベック効果の磁気転移点近傍での振る舞いを微視的に考察した。この研究は、イットリウム鉄ガーネットを用いた実験で見られるスピンゼーベック効果の温度依存性が、ハイゼンベルグモデルを用いた古典ランジュバン数値シミュレーションの結果と一致しない、という問題提起に端を発している。これは、スピンゼーベック効果のマグノン描像の正当性にも関わる重要な問題である。 我々は、ハイゼンベルグモデルではなく、これを粗視化して長波長揺らぎを適切に記述可能なギンツブルグ・ランダウモデルに基づく解析的アプローチを試みた。そして、単純な強磁性体に対しては、ハイゼンベルグモデルの古典ランジュバン数値シミュレーションの結果と同様に、スピンゼーベック効果は磁気転移点近傍で磁化に比例する結果を得た。それゆえ、我々の解析では取り込まれていない要因、すなわちイットリウム鉄ガーネットが複数の副格子をもつフェリ磁性体であること、などが実験事実の説明に必要であると結論した。 更に、当初予定していなかった「超伝導とスピン流の関わり」に関する研究にも着手した。具体的には、スピンポンピングと呼ばれる新しいスピン流生成手法を超伝導体に適用した際にどのような信号が得られるのかを実験に先立って理論的に考察し、超伝導転移点の直下で顕著なピーク構造が出現することを理論予測した。ごく最近の実験により、この理論予測を支持する結果が複数得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り磁気転移点近傍でのスピンゼーベック効果の解析を完了できたことは、本研究課題の重要な進展である。一方、当初の予定にあったスピンゼーベック効果の可視化に関しては、実験検出可能なレベルでの信号を得ることが困難であるとの予備結果が得られたため、これ以上にこの問題を追求することを中止した。 更に、当初の予定にはなかった超伝導とスピン流の関わりの研究に関しては大きな進展が見られた。実際、我々の理論予測の結果がごく最近の実験によって正当化されつつあり、今後もこの超伝導とスピン流の関わりの研究の流れは大きくなっていくと考えられる。よって、これに関する先駆的な研究が遂行できた意義は大きいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、既に完了した単純な強磁性体のスピンゼーベック効果ではなく、イットリウム鉄ガーネットのように副格子を複数持つフェリ磁性体のスピンゼーベック効果の磁気転移点近傍の振る舞いを研究する必要がある。このため、フェリ磁性体を記述するギンツブルグ・ランダウモデルの構築からスタートし、これまでの手法を援用することで問題の解決に努めたい。 また、超伝導とスピン流の関わりに関する研究分野は今後の成長が見込まれるため、本研究課題以外の研究助成などにも応募し、更なる研究の発展に努めたい。
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Causes of Carryover |
研究実施期間2年目に研究代表者の異動があり、研究実施場所が原子力研究開発機構から岡山大学へと変更され、諸手続きに時間を要したため研究実施期間2年目の出張を控えることとなった。 これに伴い当初予定していた研究発表活動が減少したため、研究期間を延長することで当初予定していた出張を行い、よりインパクトのある成果を追求しかつ成果発信をする。具体的には、2018年6月末にアメリカ・オハイオ州立大学で開催される国際会議 Spin Caloritronics 9 で招待講演を行う。
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