2015 Fiscal Year Research-status Report
グラフェンのジグザグ六角形ナノピットと点欠陥の局所電子状態とグラフェンの物性制御
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15K05159
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 朋裕 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40466793)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福山 寛 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00181298)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グラフェン / 走査トンネル顕微/分光法 / ジグザグ端状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、グラフェン上に点欠陥や端といった欠陥の構造やそれらの密度を制御して作成し、その局所的な電子状態を走査トンネル顕微/分光法(STM/S)を用いて明らかにしつつ、欠陥を導入したことによる電気伝導特性の変化を調べることを目的とする。 本年度はまずグラファイトを高温下で水素プラズマに曝すことで、その表面にジグザグ端で囲まれた六角形のナノピットを作成することに成功した。STM/S測定の結果、端にはグラフェンのジグザグ端に特徴的な局在状態も測定された。ただし、端は六角形の辺全長に渡って純粋にジグザグ構造ではなく、所々に欠陥を含むため、ジグザグ端状態のエネルギーも常に一定ではなく、10~20 nm毎に約20 meVジャンプする。それでも、この手法によって水素終端されたジグザグ端を再現性よく作成できることは、実験上の大きな進展である。 さらに、エッチング条件によって、ナノピットの形状や密度も制御できることが分かった。特に反応時の温度が450℃以下では不定形のナノピットが数多く作成されるのに対して、500℃以上では数は少ないがジグザグ六角形ナノピットが作成される。このことから水素プラズマは不定形のナノピットを作成する効果と、その端をジグザグ型に整形するふたつの効果を持ち、前者は原子状水素が、後者は水素イオンが、それぞれの効果を担っていると考えられる。 続いて、作成された六角形ナノピットのジグザグ端周辺での電子状態をSTM/Sにより詳細に調べた。磁場中ではグラファイト表面の電子状態はランダウ準位に量子化されるが、その最低ランダウ準位(LL0)はジグザグ端状態と同じディラック点に現れ、ジグザグ端近傍での両者の関係は自明ではない。本研究によって、ジグザグ端状態とLL0が端近傍で共存すること、またLL0が高次のランダウ準位とはジグザグ端近傍で異なる振る舞いを示すことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、(1)グラファイト上に六角形ナノピットを作成し、その端状態を明らかにする。(2)Arイオンスパッタによって点欠陥を導入したグラフェンの電気伝導度測定を通して、点欠陥によるグラフェンの物性制御の可能性を探る。といった研究を考えていた。 このうち(1)については計画通りに進行し、ジグザグ端で囲まれた六角形ナノピットを作成することに成功した。STM/Sを用いた測定では、ジグザグ端に局在した状態のエッジ内の分布や、磁場中でのランダウ準位との相関を明らかした。ジグザグ端にはスピン偏極状態が期待されるが、実験的にその兆候は得られるものの、確証を得るには更なる追実験が必要である。 このときナノピットは作成条件によって不定形(円形)やジグザグ六角形と、その形状を制御できることが分かった。ジグザグ端では磁性の発現が期待されるので、ナノピットの形状や密度によって、グラフェンの物性は大きく変化することが期待される。このように、(1)の研究テーマから(2)のテーマをも内包する更なる発展が期待できることが分かったので、(2)のテーマは次年度以降に後ろ倒しにすることとした。 また、当初の研究予定にはなかったが、グラフェンを筒状に丸めた構造をもつカーボンナノチューブ(CNT)の物性測定にも着手した。CNTを3次元的に絡めて紙状にしたbuckypaper試料においては、これまでにも2次元的な性質が報告されていたが、より精密な測定とその解析の結果、電気伝導度が1次元的な朝永-Luttinger液体的な温度依存性を示すことが分かった。 このように当初計画していた研究の一方に傾注した形となっているが、そちらがより物理的に重要な知見に通じる実験系であることに加えて、もう一方の研究テーマをも包含するものであるため、これまでの研究はおおむね順調か、むしろ、計画以上に順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、水素プラズマエッチングの条件によって、ナノピットの形状や密度を制御できることが分かった。特に、エッチング温度によっては、不定形なナノピットとジグザグ端をもつ六角形ナノピットとを作り分けることができる。ジグザグ端では同一の端内では強磁性的な、端間では反強磁性的なスピン偏極が期待されており、ナノピットの形状や密度によって磁気的な性質や電気伝導度の温度や磁場依存性が大きく変化する期待がある。そこで今後は、水素プラズマでグラファイトやグラフェン上にナノピットを作成し、そのときの物性変化を帯磁率や電気伝導度から測定する。 一方、水素プラズマによるナノピット作成の微視的なメカニズムについては、いくつか理論的な提案はあるものの、その詳細はいまだに不明である。また作成されたジグザグ端状態が基板との相互作用や測定温度といった環境に依存する可能性が見出された。このように、水素プラズマエッチングのメカニズムとジグザグ端状態の物性について、より詳細な研究も並行して進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度の前半は、既存の実験装置を用いてジグザグ六角形ナノピット作成の条件出しを行い、室温大気中で作成されたナノピットの実空間観測を行った。その後、後半には、熱雑音が抑えられることで測定の安定性が増すと同時に物性の本質が現れる低温環境下でジグザグ端状態の観測を行った。予算使用の大半は低温での測定に必要な寒剤の費用である。使用額はほぼ当初の予定通りであったが、低温での測定開始が少し遅れたため、若干の繰越額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究を進めていくのに当たって必要な電子部品、真空部品などの消耗品や、低温を得るために必要な寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)の購入を中心に使用する。
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Research Products
(6 results)