2016 Fiscal Year Research-status Report
鉄系超伝導体における局所軌道状態の観測と電子物性への役割の解明
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15K05167
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 義明 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (60262846)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 正行 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90176363)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 超伝導 / 鉄系超伝導体 / 核磁気共鳴 / X線回折 / 中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
多バンド/軌道をもつ鉄系超伝導における温度と元素置換量(あるいは圧力)に依存した相図に現れる構造相転移・反強磁性転移・超伝導転移へ軌道の自由度の変化が重要な寄与を持つと考えられる。本研究では、各相の軌道状態やそれに結合した結晶構造を局所的プローブ(NMR, X線, 中性子線)を用いて、調べてきた。 (1) 鉄系超伝導体の物性を担う鉄(Fe)の2次元面に平行でその上下にあるヒ素(As)面において、As-NMRを用いてFeの電子状態を調べた。今年度は、構造相転移温度(Ts)以下の軌道秩序あるいはネマチック秩序と考えられている電子相で、その磁気ゆらぎの面内方向依存性を、As核の核磁気緩和率(1/T1)を用いて調べた。その結果、Ts以下、軌道秩序あるいはネマチック秩序の秩序パラメーターの成長と磁気ゆらぎの面内異方性とが密接に関連していることがわかった。これはTs以下で電子状態の変化を示す証拠として考えられる。 (2) 2次元Fe面内の系全体の平均構造からずれを、高輝度X線を用いた様々な手法により調べてきた。Ts以上正方晶においても、その結晶構造の対称性より低いTs以下に現れる斜方晶構造が局所的に現れていることがわかった。これは昨年度までに報告したAs-NMRからの結果と整合した結果となっている。 (3) FeとAsの2次元面の間にペロブスカイト型Sr2VO3を含む系の1つSr2VO3FeAs鉄系超伝導体は、構造相転移・反強磁性転移・超伝導転移の内、最初のものが観測されず、他の鉄系超伝導体と軌道状態が異なるのではないかを言われていた。今年度、真空中のアニールにより超伝導転移温度(Tc)を変えた試料に対するX線と中性子構造解析から決定したバナジウム(V)の価数と酸素(O)数から、Feの電子状態が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 鉄系超伝導体の物性を担う2次元Fe面に対するAs-NMRと高輝度X線による局所構造測定結果は、互いに矛盾のないものとなり、Feの軌道状態及び軌道に結合したFeまわりの局所構造を調べるという当初の目的を十分に満たすものとなった。(2) 構造相転移温度(Ts)以下で、低エネルギー磁気ゆらぎのFe面内異方性を捉えることができ、磁気ゆらぎとFeの軌道状態(Feまわりの局所構造)との関連が明らかになった。 (1)の局所構造の温度変化が明らかになったことで、Ts以上の軌道状態がどのようなものであるかがわかった。(2)のTs以下の軌道秩序の磁性への影響については、超伝導機構が軌道ゆらぎによるものか、スピンゆらぎによるものかの議論へのポイントになるものとなっている。 さらに、研究実績の概要中の(3)と関連して、これまで鉄系超伝導体には、軌道ゆらぎの強いものや磁気ゆらぎの強いものという様々な系が存在し、どちらが優位なるかは系の個性と言われていた。Sr2VO3FeAs鉄系超伝導体が磁気ゆらぎの強いものの例とも考えられていたが、本研究を通して、FeAs層間にある酸素(O)やバナジウム(V)の状態が明らかになり、他の鉄系超伝導体と同様に起動揺らぎと磁気揺らぎが重要な系の1つとして理解できることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、研究実績の概要中の(1)~(3)の成果発表を行うことが第一に進めることである。さらに、鉄系超伝導体の中で反強磁性転移と超伝導転移を併せ持つSr2VO3FeAs鉄系超伝導体とは異なり、構造相転移と超伝導転移を併せ持つ鉄系超伝導体に対する軌道状態と超伝導との関連を、これまで用いて来た手法であるAs-NMR及び、X線・中性子線回折を用いて調べていく。 本研究を発展させるために、多軌道多バンドの系で超伝導とそれに関連した電子相の研究をさらに進める。他の鉄系超伝導体のFe軌道や銅酸化物高温超伝導体での酸素(O)軌道の状態を直接調べるために、最適な鉄系超伝導物質、銅酸化物高温超伝導体の探索や調査を行なっていく。まずはターゲットとした物質の局所構造の解析から始める。
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Research Products
(14 results)