2016 Fiscal Year Research-status Report
近藤半導体セリウム1-2-10系における異常な反強磁性秩序発現機構の解明
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15K05173
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
世良 正文 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (40196978)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近藤半導体 / 反強磁性秩序 / CeRu2Al10 / スピンギャップ / 電荷ギャップ / ジグザグ鎖 / 2次元性 |
Outline of Annual Research Achievements |
高いネール温度をもつ反強磁性近藤半導体CeRu2Al10は,発見から7年が経つが,未だにその奇妙な基底状態は解明されていない。CeRu2Al10のRuサイトをRhでわずかに置換すると遍歴性をもつCeの4f電子がほとんど局在的なスピン状態に変わることを2013年に報告したが,その物性の詳細を調べ以下のような今回の成果が上がった。(1)Rh濃度が0.03で突然Ceの4f電子の遍歴性が消え,それ以上の濃度で局在的になり,Rh高濃度まで局在性が保たれる。これはd電子数がRuよりRhが1つ多いことに由来するが,CeRu2Al10において4f-d混成が重要な役割を果たしていることを示している。(2)上記転移においてスピンギャップの有無が重要な役割を果たしていることを比熱,熱起電力の測定から示した。特に,フェルミ面近傍の電子状態に敏感な熱起電力の異方性を測定することにより,CeRu2Al10のスピンギャップはac面内に開いており,これがRh添加で消えていく様子の詳細な情報を得ることができた。 また,HoFe2Al10の結晶場,秩序状態を弾性定数を手段として調べ,以下のような興味深い成果を得た。(1)磁気異方性の決定, (2)結晶場レベルスキームの決定,(3)1.5K以下の低温で磁場誘起秩序相の発見。特に磁場誘起秩序相は物性一般としても稀なもので,今後,大きな発展が期待される。 また,CeRu2Al10同様に2次元磁性体である三角格子Ba3CoSb2O9とCsCuCl3の量子スピン揺らぎ・熱揺らぎの研究を行い,構成元素の磁性イオンのCoとCuの違いからくる揺らぎの性質の違いを明らかにした。圧力効果の実験も進んでおり,量子スピン揺らぎに関する興味深い結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
反強磁性近藤半導体CeRu2Al10の研究は7年目を迎え,基本的な性質はかなり詳細に調べられ,問題点は煮詰まってきており,Ceの4f電子スピン状態が元素置換によりどのように変わるかを詳細に調べることがこの系の奇妙な基底状態の起源に迫る道である。本年度では,特に,RuサイトをRhおよびFeで置換した系における磁気的・電気的性質を詳細に調べた結果,Ceの4f電子の遍歴性・局在性がどのような状況下で出現するかが明らかになってきた。これによって今後なすべき方向性が見えてきた。 同じ結晶構造をもつ参照系として,HoFe2Al10の結晶場,磁気異方性を調べたが,その過程で,低温で磁場誘起秩序相の発見という大きな成果を得た。この秩序相は予想外のもので,今後,磁場中中性子散乱・X線散乱実験などでその詳細を調べることになる。 また,CeRu2Al10で重要だと考えている2次元磁性を調べる観点から,三角格子系の物質Ba3CoSb2O9, CsCuCl3を調べた。これら2つの物質は絶縁体である点が異なり,量子スピン揺らぎだけを取り出してその性質を調べることができる。CeRu2Al10の奇妙な基底状態の起源を明らかにする上で重要な情報を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
Ce1-xLaxRu2Al10やCe(Ru1-xRhx)2Al10のように1つのサイトを置換した系の研究は大方調べつくされた段階にある。このような置換により,Ceのもつ4f電子の磁性の遍歴性・局在性が大きく変わることが明らかになった。このような状況をベースにして,今後は,Ce1-xLax(Ru1-yMy)2Al10(M=Rh, Fe)のように2サイト置換系を調べることにより,遍歴・局在の出現条件の詳細を明らかにし,反強磁性秩序を示す近藤半導体のパラ状態における半導体的振る舞いの起源およびネール温度以下の奇妙な基底状態における4f電子状態を明らかにする。この過程で,高温から存在する電荷ギャップ,ネール温度以下で発達するスピンギャップ・電荷ギャップの起源を明らかにする。 HoFe2Al10では低温で磁場誘起秩序相が存在することを発見したが,今後磁場中での中性子散乱・X線散乱実験を行うことにより,どのような秩序相であるかを明らかにする。 三角格子系物質であるBa3CoSb2O9, CsCuCl3の磁気的性質の圧力効果を調べ,量子スピン揺らぎが圧力によりどのような影響を受けるかを明らかにし,揺らぎの大きい2次元磁性体からの情報を得,CeRu2Al10の2次元性との関連を調べる。
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Research Products
(19 results)