2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05180
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Research Institution | Toyama Prefectural University |
Principal Investigator |
室 裕司 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50385530)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近藤半導体 / 異常反強磁性秩序 / 元素置換効果 / 異方的近藤効果 / 局所反転対称性の欠如 |
Outline of Annual Research Achievements |
セリウム3元化合物CeRu2Al10は,27Kという高温で反強磁性秩序を起こす初めての近藤半導体である。異常に高い転移温度の要因には,局所反転対称性の欠如と,Ceがもつ4f電子と伝導電子との異方的c-f混成が重要と考えられる。本研究では,組成の3/4以上を占めるアルミニウム(Al)による伝導3p電子との混成に注目し,Alを他の元素と置換することで4f電子と3p電子との混成を詳しく調べることを目的とした。 昨年度に,Alよりも3p電子が1個多いシリコン(Si)で置換したCeRu2Al10-ySiyを研究し,わずか1%の置換で異なる反強磁性磁気構造に変化すること,さらに3p電子のドープ量に注目して,RuをRhで置換したd電子ドープ系と比較すると,近藤効果の強さや反強磁性転移温度などの物性変化が定量的に一致することを発見した。以上の結果から,CeRu2Al10ではd電子とp電子が混成して伝導バンドを形成し,4f電子との複雑な混成効果と転移温度増大を生んでいることを指摘した。本考察を確実にするため,平成28年度では3p電子を減らすCeRu2Al10-zZnzの試料作製を試み,Al-Zn混合フラックス法によってZn置換の単結晶試料作製に成功した。AlとZnの混合比を変えることで置換量zを0.13まで変化させることができた。物性測定から,zとともに転移温度は27Kから23Kまで減少するが,近藤効果は増強されること,転移温度が15%の減少にとどまるのに,エントロピー消費は40%以上も減少する,つまりCe磁気モーメントは近藤効果の増強によって急速に縮むことが分かった。この減少率の違いから,転移温度の増強には近藤効果の強さ以外の要因,例えば近藤効果の異方性やCeサイトでの局所反転対称性の欠如などを考えなければならないことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Alサイトの元素置換によるホールドープでは,候補元素のMgやZnの飽和蒸気圧が低いこと,また先に行ったSi置換の最大置換量が8%と低かったことなどから,試料の作製が困難と思われたが,Al-Znの混合液をフラックス剤とすることで置換に成功し,さらにAl-Zn混合比を変えることで置換量も制御でき,単結晶試料による詳細な物性測定を行うことができた。Zn置換系については,高磁場までの電気抵抗測定を加えて,国際会議での報告および論文発表を行う予定である。 中性子散乱については,ISISでのマシンタイムが思ったほど確保できなかったため,CeRu2Al109.9Si0.1単結晶試料のチェックにとどまったが,本年度に測定の目処が立ったため,本年度は詳細な結果が得られると期待される。 一方,イギリス・ダラム大学のHatton教授らと共同で行ったCeRu2Al10に対する偏極軟X線共鳴散乱実験では,反強磁性秩序において反強磁性モーメントがc軸から約10度a軸側に傾いているという新しい結果を得た。本結果は中性子回折実験でも観測されておらず,CeRu2Al10の異常反強磁性秩序の起源を明らかにする上で重要な情報である。本結果は現在投稿論文審査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在,反強磁性磁気構造の変化したCeRu2Al109.9Si0.1単結晶試料による中性子散乱実験を,英国ラザフォード・アップルトン研究所のD. T. Adroja教授と共同で同研究所付属施設ISISおよびフランスのILLにて進行中である。予備測定にて,準備した単結晶試料が中性子散乱実験に使用可能であることを確認しており,5月以降弾性散乱による磁気構造の確認と非弾性散乱によるマグノン分散の観測を行い,CeRu2Al10で観測されたスピンギャップ等のSi置換による変化を調べる。 平成28年にはAl-Zn混合フラックス法によって3pホールドープに成功し,ホールドープ量も制御できることが分かったので,CeRu2Al10-zZnz単結晶試料を用いた研究をさらに進める。まず,反強磁性磁気構造の情報を得るために,高磁場までの磁気抵抗・ホール抵抗を測定する。同時に,Zn濃度の最も多い試料について,Si置換試料と合わせてAdroja教授と共同で実験できるよう,中性子散乱実験用試料を準備する。さらに,Znをドープすると近藤効果が増強されるので,CeRu2Al10よりも近藤効果が強いCeOs2Al10についてもZn置換を試みる。 Si置換では,対応するd電子ドープ系Ce(Ru1-xRhx)2Al10との比較によってより深く研究できた。一方Zn置換に対応するdホールドープ系は,Ce(Ru0.95Re0.05)2Al10の1種類だけの報告なので,物性の比較が詳しく行えない。そこでRe濃度の異なるCe(Ru1-yRey)2Al10を,本年度富山県立大学に赴任した谷田博司准教授と共同で研究し,Znドープの結果と比較することでホールドープに対するより詳しい議論を行う。
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Research Products
(14 results)