2016 Fiscal Year Research-status Report
磁気熱量効果を用いた三角格子有機磁性体における量子スピン液体状態の研究
Project/Area Number |
15K05188
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
磯野 貴之 国立研究開発法人理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 特別研究員 (70625631)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子スピン液体 / 三角格子有機磁性体 / 磁気熱量効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁性体の“新奇な磁気状態”と考えられている「量子スピン液体状態」は、現実の系が極めて少ないため、実験的理解が難しい状況である。その中において近年、三角格子有機磁性体において申請者らの発見を含めていくつかの候補物質が発見されている。本研究はそれらの量子スピン液体状態の普遍的な熱力学特性を、磁気・熱測定により実験的に明らかにすることを目的としている。 当該年度は、二つの三角格子有機磁性体、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3およびEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の磁気熱量効果測定を行った。その結果、両物質で、極低温・磁場中において電子スピン系と格子系との結合が極めて弱くなっていることを突き止めた。このような弱結合状態では、比熱や熱伝導率における電子スピンの寄与を正確に評価できなくなる可能性があり、これまでの解釈に影響を及ぼすかもしれない。 また、得られた電子スピン-格子緩和時間τは、NMRの核スピン-格子緩和時間T1の温度依存性と同様のべき乗則を示すことが分かった。この結果は、弱結合状態が格子系ではなく、電子スピン系の性質によって生じていることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、二つの三角格子有機磁性体について磁気熱量効果の測定を終えた。その結果、共通して極低温・磁場中で電子スピン系と格子系の結合が弱くなっていることを突き止めている。κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3については、研究結果をまとめて論文を投稿する段階である。また、平成27年度にκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の磁気トルク測定を行ったが、その結果をまとめた論文をNature Communications誌に発表し、プレスリリースを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はEt2Me2As1-xSbx[Pd(dmit)2]2の磁気熱量効果測定を行う。この物質は、カチオンの混晶比を精緻に変えることで、スピンフラストレーションの大きさを制御できるという特徴を持つ。これにより、基底状態を反強磁性、量子スピン液体、非磁性電荷秩序と様々に変化させることができる。それらの基底状態における磁気熱量効果を比較することで、量子スピン液体を特徴付ける磁気エントロピー変化や、電子スピン-格子緩和を明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成28年度中の所属変更によって、研究計画を一部修正する必要があった。具体的には、磁気熱量効果の測定に使用する冷凍機が変わったため、必要となるエレクトロニクス部品に変更が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のエレクトロニクス部品を平成29年度に購入する。
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Research Products
(5 results)