2016 Fiscal Year Research-status Report
複合極限環境下での高分解能X線分光によるウラン化合物の価数ゆらぎの可能性の検証
Project/Area Number |
15K05195
|
Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
河村 直己 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主幹研究員 (40393318)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ウラン化合物 / 量子臨界現象 / 価数ゆらぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,5f電子が生み出すエキゾチックな物性をミクロな観点から理解するために,複合極限環境(低温・強磁場・高圧)下でのウラン化合物のウラン価数をX線分光測定によって評価し,量子臨界現象との関連性が示唆されている価数ゆらぎの可能性を探索することを目的としている.今年度は,主として以下の3つの項目について実施した. 1.ウラン化合物に対するX線分光測定とウラン価数評価法の構築:様々なウラン化合物に対して低温・高圧下でのX線吸収・発光分光測定を実現し,高エネルギー分解能スペクトルの取得に成功した.これによって,ウラン価数を精度よく評価できるようになった.また,得られた結果に対し,希土類化合物と同様の価数評価法を適用することでウラン価数が評価可能であることが確認された. 2.X線発光分光法に対する対象となる希土類元素の拡張:電子状態パラメータの決定には,高精度でかつ高エネルギー分解能スペクトルの取得が必要不可欠である.これまで測定が不可能であった希土類元素はSm,Eu,Erであった.今年度は装置の整備が進んだことにより,すべての希土類元素が測定可能となった.様々な元素を測定することによって,X線分光法による電子状態の決定方法の普遍性を導き,また併せて興味深い物性の理解が進むと期待される. 3.X線分光法による電子状態パラメータ決定のための手法開発:実験的に取得されたX線分光スペクトルに対する理論計算の精度向上に努めている.高精度・高分解能スペクトルが取得できるようになってきたため,理論計算による実験結果の再現性の向上で電子状態パラメータを精度よく決定できるようになる.一方で,X線分光法を用いてf電子の情報を取得する新たな可能性を見出した.本実験結果は理論計算で再現することに成功しており,今後,本手法のウラン化合物への展開を目指す.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,SPring-8利用研究課題が3件採択され,希土類化合物だけでなくウラン化合物に対するX線分光測定が実現し,ウラン価数の評価を行う基盤構築に成功した.主として温度および圧力の外場パラメータに対するX線吸収および発光スペクトルを取得し,標準物質をはじめとした様々なウラン化合物に対する価数評価を行った. 一方で,X線分光法による電子状態パラメータ決定のためのスタディも順調に進んでいる.イッテルビウム化合物を中心に,4f基底状態を決定できる手法の開発に成功し,理論計算によって実験結果をほぼ再現することができている.今後は,この手法をウラン化合物へ展開することと,理論計算の厳密化によるスペクトルの再現性の向上を目指すことで,電子間相互作用パラメーターの導出を実現し,希土類化合物やウラン化合物に対する興味深い物性との関連性を議論することを目指す.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目的を達成するためには,様々なウラン化合物に対する測定と様々な外場環境による測定を行い,より多くの情報を収集することが必要不可欠である.これまで,外場環境として,温度および圧力の導入に成功しているが,今年度は新たに強磁場下での測定を実現し,温度・磁場・圧力といった複合極限環境下でのX線分光計測を目指す.また,SPring-8利用研究課題にて可能な限り多くの試料に対する測定や試料環境下での測定を実施する必要があるため,今後も継続的に課題申請を行い,X線分光測定を実施していく予定である.併せて,国際規制物資に対する様々な試料環境下での測定の標準化と計測の高感度化を実現し,複合極限環境下X線分光測定のスループットの向上を目指す. 一方で,得られた実験結果から得られるウラン価数や電子状態パラメータの評価・決定手法についても,その正当性・妥当性について検討していく必要がある.したがって,理論グループとの共同研究を展開し,より簡便にスペクトルを計算する手法の開発とその標準化を推進する.また,本研究課題では主としてX線吸収・発光分光による電子状態パラメータ決定を目指しているが,光電子分光計測や新たなX線分光計測の開発を実現し,多角的な視点から評価手法の正当性を議論することも重要であるため,これらについても積極的に推進していく.
|
Causes of Carryover |
請求金額には,ウラン化合物を封入するための密封容器の製作費用を計上していたが,初年度での実施計画に遅れが生じていた.そこで,今年度の実験計画を見直した結果,密封容器の製作を見合わせることにした.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度で,ウラン化合物に対する低温・強磁場下での測定を計画しており,それを実現するための密封容器の製作を速やかに行う計画である.
|
Research Products
(6 results)