2015 Fiscal Year Research-status Report
非線形な環境影響を含む生体分子モデルと機能=揺らぎ関係
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15K05196
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中川 尚子 茨城大学, 理学部, 教授 (60311586)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 非平衡状態 / 系の分割 / 粗視化 |
Outline of Annual Research Achievements |
非平衡状態に置かれた熱力学系を分割し部分系を設定できるか否かを吟味するための最初の試みとして、一次元熱伝導系を二つに切り離す数値実験を行った。まずはこの数値実験に進めための準備として、平衡状態から熱伝導状態に遷移する際に発生する過剰熱を計測し、系の境界での熱測定だけから精度よく非平衡エントロピーを決定する方法を提案した。計測した非平衡エントロピーは、系の局所的な熱力学量による局所平衡仮説とよく合致することがわかった。次に、正常な熱伝導を示す系を分割する数値実験に進み、具体的に非平衡エントロピーの相加性が成り立つことを示した。一方で、非平衡エントロピーの示量性が成立していることも示すことができたが、この示量性と先の相加性が成立する条件が異なっており、平衡熱力学での基本性質である相加性と示量性の同義性をそのまま拡張することはできないことを示した。この成果は論文としてまとめられ、現在査読中である。この論文のプレプリントはarxiv:1510.01016として公開されている。 我々の観測にかかるのは粗視化された状態であり、観測できない隠れた自由度が無数に存在する。特に非平衡状態では観測にかかる自由度以外からのエネルギー散逸が重要な意味を持つ。そこで、非平衡状態下の粗視化モデルと粗視化前モデルの整合性を問う根源的研究を行った。生体分子モーターのモデルと関係するファインマンラチェットを例にとり、系をモデル化した後に解析的手法でこのモデルを粗視化した。最初のモデルでのエントロピー生成、および粗視化レベルを上げるたびのエントロピー生成をそれぞれ計算したところ、各粗視化のたびに隠れたエントロピー生成が生じること、非平衡である限りオリジナルと粗視化モデルの間の整合性を保てないことを見事に定式化できた。この研究は中山洋平氏(中央大)、川口恭吾氏(Harvard medical school)と共同して行い、現在、論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、研究課題として(1)~(4)の4つをあげ、それぞれを並行して進めていく計画を立てている。計画初年度の27年度は課題(1)~(3)の立ち上げのための年度と位置づけていたが、特に課題(2)(3)について28年度に予定していた内容にまで踏み込んで研究を進めることができた。そのために数値計算の環境整備を前倒しする必要が生じたので、29年度予算の一部を前倒しし数値計算用のサーバを購入した。この前倒しにより、さらに研究課題の進捗状況が改善している。
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Strategy for Future Research Activity |
非平衡系の部分系分割の可否についてさらに研究を進めるために、異なるモデル系を用いて非平衡エントロピーの吟味を行う。具体的には異常熱伝導を示すモデルや系に一様性がない複雑な構造の系(タンパク質を模したモデルなど)の非平衡状態を扱い、非平衡エントロピーを数値実験により決定する。得られた結果を27年度に得た正常熱伝導系での知見と照らし合わせ、部分系分割をして考えることの問題点を洗い出して行く。 生体分子では分子全体スケールでの大域的な動きが分子の機能と密接に関わっている。大域的な動きをもたらすメカニズムに着目するのではなく、そのようなダイナミクスが生じたことを明らかにする切り口を提案するために、非平衡状態での大域的な動きの発生が過剰熱や非平衡エントロピーとどのように結びつくか検討を始める。そのために、まずは、大域的なダイナミクスが生じうる比較的簡単な系(例えば対流状態が生じる粒子系など)を取り扱う予定である。
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Causes of Carryover |
29年度の予算を前倒しし研究推進に必要な備品を購入した。前倒し分も合算してほぼ全額に近い予算を消化し、残額はわずか1135円となった。この残額では研究推進のために有用となるような物品を購入することはできず、研究打ち合わせのための旅費とするにも不足であるので、次年度の予算と合算して有意義に使用するべきであると判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分の予算と合算し、数値計算に要する備品を購入するために使用する。
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