2017 Fiscal Year Research-status Report
量子情報理論とテンソル積変分法を用いたフラストレート・ランダム量子多体系の研究
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15K05198
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
引原 俊哉 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00373358)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フラストレート量子スピン系 / ランダム量子スピン系 / 密度行列繰り込み群法 / 実空間繰り込み群法 / テンソルネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
強磁性的に相互作用した2つのS=1/2スピン(強磁性スピンダイマー)をユニットとしたフラストレート量子スピン系の研究を行った。2次元格子を含んだ一般の格子上で定義された、フラストレートした2スピン交換相互作用と4スピン相互作用を含んだ量子スピン模型に対する数値解析を行い、その模型の基底状態相図を得た。その結果、昨年度までの研究で発見していたスピンネマティック秩序状態をつなぐように、相互作用パラメータ空間の広い範囲で、スピンネマティック秩序相が実現されることを明らかにした。また、1次元梯子格子上に定義された、強磁性スピンダイマーからなるフラストレートスピン模型に対して、厳密対角化法、密度行列繰り込み群法、解析的摂動計算などによる詳細な解析を行い、この模型の基底状態相図を決定した。そして、この模型では、スピンネマティック臨界状態を含んだ様々な量子秩序・無秩序相が実現されることを明らかにし、それらの相の性質の特定、及び、その相を実現するパラメータ空間の決定に成功した。これらの結果は、強磁性スピンダイマーをユニットとした量子スピン系という、スピンネマティック状態を実現する量子磁性体の新たなカテゴリを提案し、そのような系の理論的・実験的探索を推進する結果として意義深いものである。 また、2次元ランダム量子スピン系を解析するための実空間繰り込み群法の改良も行った。ブロック間のエンタングルメントエントロピーを用いて繰り込み順序を決定するアルゴリズムを開発し、系の状態を記述するテンソルツリーの構造を最適化する方法を定式化した。この改良は、2次元ランダム量子スピン系に対する高精度数値計算の実現に大きく寄与するものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究における最も重要な進捗としては、2次元を含んだ一般の格子においてスピンネマティック基底状態を実現するフラストレート量子スピン模型を提案し、その基底状態相図を決定できたことが挙げられる。特に、その基底状態相図により判明した、4スピン相互作用が小さい場合でも、2スピン交換相互作用パラメータを調節することで、スピンネマティック状態を実現できるという知見は、スピンネマティック状態を実現する量子磁性体の探索に一定の指針を与えるものであり、今後の実験研究の発展につながる結果として評価できる。 また、2次元ランダム量子スピン系を解析する数値手法の開発においては、改良実空間繰り込み群アルゴリズムを定式化できたことが進捗と言える。一方で、その精度向上の定量的評価までは到達できておらず、この点については、平成30年度の研究課題として取り組む予定である。 以上より、本年度の研究の進捗の評価を「(2)おおむね順調に進展している」とする。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究においては、平成29年度までの研究で開発した実空間繰り込み群法の改良アルゴリズムを用いた、2次元量子ランダムスピン系の研究を推進する。まず、正方格子・蜂の巣格子上に定義された2次元量子ランダムスピン系に対して、改良実空間繰り込み群法による数値計算を行い、その結果を量子モンテカルロ法により得られる結果と比較することで、改良実空間繰り込み群アルゴリズムの精度に関する定量的評価を行う。その後、三角格子・カゴメ格子などの格子上で定義されたフラストレート・ランダム量子スピン系に対して改良実空間繰り込み群法を適用し、相関関数の空間的分布などを数値的に調べることで、これらの系の基底状態の特性の解明、及び、低エネルギー状態を記述する有効理論の構築を行う。 また、2次元フラストレート量子スピン系におけるスピンネマティック状態の実現に関する研究も進める。平成29年度に得られた、一般の次元の格子上での系に対する基底状態相図を基に、実在の量子磁性体におけるスピンネマティック相の実現可能性について調べる。具体的には、強磁性スピンダイマーをユニットとする有機磁性体や、グラフェン上に不純物原子を並べた人工的SU(4)スピン軌道系などを想定し、これらの物質により近いパラメータ領域におけるスピンネマティック基底状態の実現、及び、観測可能性について調べる。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況、及び、得られた研究成果に応じて、国際研究会における発表計画を変更したため。次年度使用とした予算は、国際研究集会への参加、及び、数値計算データを適切に処理するためのソフトウェアの購入に使用する。
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