2017 Fiscal Year Research-status Report
不純物・相転移を伴う複雑流体の分子論からの数値解析
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15K05201
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 宙志 東京大学, 物性研究所, 助教 (50377777)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分子動力学法 / 高分子 / 複雑流体 / SIMD |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子を含む液体が、カルマン渦に与える影響を分子動力学法にて調べた。高分子が短い場合と長い場合について計算を行った結果、高分子鎖が短い場合には粘性率を変化させる効果しか認められなかったのに対して、長い高分子鎖を添加した場合には、同じレイノルズ数で高分子を含まない液体に比べてカルマン渦がぼやけ、かつ渦の放出周波数が長くなる効果が見られた。また、円柱にかかる力をフーリエ変換することで、長い高分子を添加するとスペクトルのピークが低周波側にシフトすること、またピークの幅が大きくなることがわかった。これらは実験で報告された、カルマン渦がぼやけること、かつ渦の放出周波数が長くなる結果と整合する。 また、分子動力学法の性能向上のため、AVX2、AVX-512を用いたSIMD化を試みた。命令セットとしてAVX2を持つIntel Haswellの場合には、コンパイラによる自動ベクトル化の効果が薄く、手動によるSIMD化により数倍以上の性能向上があった。しかし、AVX-512を持つXeon Phi(Knights Landing)では、コンパイラの自動ベクトル化が効果的に働き、手動でSIMD化した最速コードは、自動ベクトル化されたコードにくらべて60%程度の性能向上にとどまった。また、効果的なSIMD化のためにはデータ構造が決定的に重要であることがわかった。データ構造は、レジスタとのデータのやりとりの効率だけでなく、キャッシュ効率とも密接に関わっており、例えばArray of Structure (AoS)とStructure of Array (SoA)のどちらが良いかはアーキテクチャに強く依存することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高分子添加による流動様式の変化を、分子動力学法により原子スケールから解像することに成功した。また、実験や流体シミュレーションでは得ることが難しい、流動中の高分子の配向度や大きさなどのミクロな情報が得られた。本結果により、高分子と溶媒の相互作用というミクロなスケールから、カルマン渦の変化というマクロなスケールまで分子動力学法のみで到達可能であることが示された。この結果は、粗視化された階層的シミュレーションの妥当性評価のための参照となるだけでなく、高分子を含む機能性液体の性質予測がより精密に行える可能性を示した。以上から、本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は高分子と流れとのカップリングについて調べているが、今後は気液相転移と流れ、ひいては気泡流と高分子と流れという三者がカップリングした系を調べ、たとえば消泡剤のシミュレーションによる再現、およびその機能発現メカニズムの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
(理由) 当該年度中に購入したマシンが想定よりも安価であったため。 (使用計画) 購入予定の書籍費用の一部とする。
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