2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K05203
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
笹本 智弘 東京工業大学, 理学院, 准教授 (70332640)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 排他過程 / 揺らぎ / 大偏差 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1次元排他過程における粒子の位置の揺らぎに関する研究を中心に行った。 まず、q-TASEPと呼ばれる完全非対称単純排他過程の一種においても、同様の初期条件、特に定常的な初期条件の場合に粒子の位置の揺らぎについて研究を行った。これまでも原点より左側の格子点が全て埋まっている初期条件においては粒子の位置の揺らぎについて調べられていたが、原点より左側に粒子がランダムに存在する場合はモーメントが発散するという困難があったため未解決であった。この問題をモーメントを直接使わない新たな方法を開発して解決した。現在論文を投稿中である。 また、対称単純排他過程において、原点より左側には密度r-、右側には密度r+で粒子がランダムにいる初期条件の場合に、原点から出発する粒子の位置の揺らぎについて調べた。この場合、時間tが大きい場合、典型的な揺らぎはtの1/4乗程度であることは、その係数とともに長年知られていたが、tの1/2乗のスケールで見た場合の大偏差(large deviation)については、明示公式が得られていなかった。本年度は、そのような公式を与えることに成功した。基本的なアイディアは、近年活発に研究されている非対称単純排他過程の性質を調べるための方法を用いて非対称な場合のモーメントに関する公式を導き、その公式において対称極限を取ることにより対称過程に関するモーメントに関する公式を見出し、それから母関数を構成するというものである。対称極限を取った際の公式において一般的な構造を見出す点が非自明であったが、それらがモーメントとキュムラントの関係を与える係数を用いて表すことができることを見出すことによって、結果を得ることができた。この成果に関しては最初のレター論文が受理された。現在は本論文を準備するとともに、他の初期条件や巨視的揺らぎ理論との関連などを研究中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
離散模型に対し定常状態における揺らぎを研究することは、この研究課題において重要な位置を占めていたが、それが平成28年度の研究により解決したということであり、研究はおおむね順調に進展していると言える。まずはq-TASEPという模型に対する解析が可能となったわけであるが、手法がこれまでのものとはかなり異なっていることもあり、今後同様の手法がより一般の模型や非対称排他過程等の他の模型に対しても拡張、適用可能かを検討するという道筋が開けてきており、研究が発展しつつある状況である。 また、平成28年度は当初の計画ではそれほど大きな位置を占めていなかった対称排他過程において、粒子の位置に関する大偏差を決定するという研究に力を入れて行った。これは当初の計画の中ではそれほど特に重視していた課題ではなかったが、研究の進展に伴って問題の重要性の理解が進み、さらに問題の解決方法を見出したため時間をかけて研究を進めた。これは、研究計画が順調に進んだというよりは、研究が少し違う方向に広がったと言える。 一方当初の計画では、一つの着目粒子の位置の揺らぎのみでなく、2つ以上の粒子の位置の揺らぎを調べる研究にも着手する予定であったが、現在までにその段階には達しておらず、当初の計画以上に研究が進展しているとまではいえない。上記のように、当面は平成28年度の成果を直接的に発展させる研究に力を入れる予定であるが、それが一段落したらそのような課題にも新ためて取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画から少し変更している面もあるが、平成28年度に研究において本質的に進展があったので、平成29年度以降は、まずはそれをさらに発展させることを優先的に進めたい。 離散モデルの揺らぎに関しては、まずは平成28年度に連続時間q-TASEPで用いた手法を用いることでどの程度一般的なモデルの定常状態の解析が可能となるか調べる。現在までに、離散時間q-TASEPに対しては同様な解析が可能であることはほぼ確認しているが、さらにq-Hahn過程、高スピン模型と呼ばれるより一般の模型に対して検討を進める。非対単純称排他過程という標準模型に対しても同様の手法が適用可能か検討を行う。さらにいくつかの興味ある極限的な状況の解析や、他粒子の分布を調べる等の一般化についても検討を進める。 また、対称排他過程における着目粒子の位置の揺らぎに関しては、平成28年度中に解析を行ったのは原点の左右で粒子密度が違うランダム初期条件の場合のみであったが、他の初期条件に対しては大偏差関数が異なったものとなることが期待されるので、それを実行する。手法の面でもいくつかの興味深い課題があるので、検討を進める。例えば、平成28年度の研究においては、一旦非対称性のあるモデルにおいて解析を行い、その上で対称極限を取ることで対称的なモデルに対する結果を得たのであるが、非対称性のあるモデルを経由しない手法を見出す。成功すれば手法が単純化され、一般化が容易となると期待される。また、巨視的揺らぎ理論とよばれる理論との関係の理解も深める。大偏差関数はこの理論によっても記述はできるが、現れる微分方程式が非線形であるためほとんどの場合実際に解いて大偏差関数を求めることはほとんど不可能である。本研究で得た表式を参考にすることにより、方程式を解く可能性を探る。 その後、違う対称性を持つ系や量子系の考察も行いたい。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、いくつかの国際会議や共同研究への出張旅費での使用を予定していたが、オーストラリア における国際会議における旅費、宿泊費が先方負担となったというような事情のため、使用額が当初の予定より減った。また本研究の補助を行っている学生の研究の進捗が当初より遅れたため、その成果発表のために使うことを検討していた分の資金を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず、平成29年度に入り本研究の補助を行っている学生の研究が論文の形にまとまったため、その成果発表のための論文掲載料、学会発表のための旅費に使用する。また研究代表者も7月にモスクワへの国際会議に参加したり、共同研究を進めるためにフランス等を訪問することを計画しており、平成28年度から平成29年度に繰り越した分の額以上は使用する予定が既に決まっている。
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Research Products
(8 results)