2017 Fiscal Year Research-status Report
ガラス・ジャミング系におけるレプリカ対称性の破れと物性
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15K05212
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉野 元 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (50335337)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガラス転移 / ガラス-ガラス転移 / パッチコロイド / ランダムエネルギー模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度末に、並進自由度と回転自由度を併せ持つ系におけるガラス転移について、無限大次元で厳密になる第一原理的なレプリカ液体論を構成した。軸対称性を仮定し、系の配位は各粒子の重心位置と回転軸の方向(スピン)で指定できるとした。本年度は具体的に、1パッチおよび2パッチの引力コロイド系を解析した。パッチが全体を覆っている場合は、通常の引力コロイドガラスの問題に帰着する。
解析の結果、系の相挙動は非常に多彩であることがわかった。並進自由度の動的ガラス転移には、通常の引力コロイドガラス系と同様、リエントラント挙動や、引力ガラス-斥力ガラス転移が現れる。一方、回転自由度にもこれらの現象が現れるが、(i) 並進自由度に連動する場合のみならず(ii) 並進自由度とは異なる、特異な振る舞いをする場合があることが明らかになった。特に、回転自由度のみのガラス-ガラス転移を新たなに発見した。今後、数値シミュレーションや実験によって現実の3次元系でこの予想を検証することが望まれる。
また、昨年度に引き続き、外的なランダムネス(quenched randomness)をもたない、M成分p体相互作用ベクトルスピン系の解析を進めた。その結果、以下のような新たな知見を得た。(a) 強磁性相互作用の場合、M無限大、かつp無限大極限で、系の典型的なエネルギー分布が、ランダムエネルギー模型と等価になることを見出した。これは、強磁性の基底状態とその周辺をのぞいて、系のエネルギーランドスケープが乱れていることを示し、いわゆるself-generated randomnessの存在を直接証明する結果と言える。(b) 系に、quenched randomess を付加する拡張をしたところ、上記のself-generated randomnessとquenched randomnessが相加性を持つこと事がわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
パッチコロイドについての具体的な理論解析は、昨年度構築していた一般的な理論的枠組みを用いたものである。自由度の多い問題で、具体的な解析となると、多重積分をともなう積分方程式の数値解析の段階が技術的に困難であると予想していた。しかし、パッチコロイドの場合は、解析的な計算で問題をかなりの程度簡単化できることに気がつき、1段階のレプリカ対称性の破れをともなう並進および回転自由度のガラス転移を定量的に解析することに成功した。今回新たに発見した、回転自由度における独自のガラス-ガラス転移は、当初全く予想していなかったものであるが、非常に興味深いものである。
外的なランダムネス(quenched randomness)をもたない、M成分p体相互作用ベクトルスピン系の解析は、昨年まで得られていた結果をさらに補強するものである。特に、上に触れた強磁性模型と、ランダムエネルギー模型との等価性は、self-generated randomness の存在をレプリカ法を用いずに厳密に示す結果である。当初このような解析は予定していなかった。これまでの、いわゆるスピングラスでの長い研究では、quenched randomnessとフラストレーションの2つの要素が、スピングラス転移の必須要素であると考えられてきた。一方、いわゆる構造ガラスにはそのようなquenched randomnesが存在しない。上記の結果は、スピン系においてもself-generated randomnessが存在しうることを, 端的にしめしている。
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Strategy for Future Research Activity |
3次元パッチコロイド系の分子動力学シミュレーションを行い、本年度得られた理論的予想を3次元系において検証する。 また、並進自由度と回転自由度を併せ持つ系におけるガラス転移の理論解析を、楕円コロイドなど様々な場合に展開し、普遍的特徴を明らかにする。上記のように多重積分の取り扱いが技術的な壁となるが、モンテカルロ積分を併用するなどの工夫を行う。
M成分p体相互作用ベクトルスピン系の解析は、これまでM無限大極限において行ってきた。次に、1/M展開の解析を行い、成分数Mが有限である現実の系に定量的に近ける試みを行う。特に、ジャミング転移の普遍性を含め、ガラス転移およびガラス相の特徴がどのような変更を受けるのかを明らかにしてゆく。
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Causes of Carryover |
主に、本研究で得られた成果を、今年度(2018年6月)に開かれる国際会議 Unifying Concepts in Glass Physics (UCGP 7)(英国ブリストル大)で発表するための旅費、および本研究の成果を論文発表するための投稿料として使用する。
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Research Products
(18 results)