2018 Fiscal Year Research-status Report
散射雑音を除去した光計測を基盤とする揺らぎのダイナミックスの研究
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15K05217
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
青木 健一郎 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (00251603)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三井 隆久 慶應義塾大学, 医学部(日吉), 准教授 (20242026)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 揺らぎ / 散射雑音 / 氷 / カオス / 雑音除去 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は計画に沿って研究を遂行することができました. 散射雑音を除去した揺らぎ測定法を,光断層撮影に組み合わせた手法の研究を完成し,発表しました.この手法では,従来の光断層撮影に比べ,厚みのある物体の各断面の物性情報をはるかに多く得ることができます.測定時間も短いので,医学分野や,時間的に変化していて即時性が求められる他の分野への応用が期待されます. 散射雑音を除去した揺らぎ測定法を用い,氷の表面の揺らぎスペクトルを融点以下の様々な温度で測定しました.これを基に,氷の表面には薄い水の層のようなものが-15℃程度までは存在することを示し,液体相の厚みの温度依存性を求めました.さらに,不純物を加えると,層の厚みは非一様になり,その性質が不純物の種類に依存することを明らかにしました.今まで長く研究されていながら,氷の表面の揺らぎ測定をした過去の研究例は無いといってよく,新たな側面から性質を研究できる手法を与えることができました.水,氷は至るところに存在するので,我々の研究成果は物理学として興味深いだけではなく,地学,気象学,生物学等にも示唆を与え,昔からありながら今でも議論が尽きない「氷はなぜ滑るか」という問題の解答にも寄与します. 有限温度の物理系のダイナミックスをミクロの世界から理解するには,位相空間を軌道が満たすカオスの力学が不可欠な役割を果たします.初期条件によって対称性のために位相空間の部分空間内でしか運動できない場合があり,この点についてφ4乗理論を用いて系統的に調べました.また,小さい系では,温度の定義がユニークではなく,熱力学の基本法則に反するように見える現象が発生することを明らかにしました.さらに,カオス性を記述する局所的リャプノフ指数の性質を分析しました. 本事業の成果については査読付き国際雑誌に3件論文を発表し,国内の学会で3件発表しました.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は散射雑音を除去した揺らぎ測定を,様々な分野で応用して多様な物質の物理学的性質を調べ,さらに,手法自体を改良してきました.光断層撮影(光CT)を拡張し,各断面の反射率の熱揺らぎを測定する手法を開発し,その有効性を示したことは,物理学のみならず,医学系,生物学系,等様々な分野での利用が期待されます.我々の研究成果を広い範囲の分野で応用できるようにしていこうという研究目的に沿って進んでおり,将来の応用を期待しています. さらに,氷の表面の性質について,初めて用いられた手法で,新たな成果を得たことは,我々が今まで研究してこなかった表面,界面の性質を調べるという当初よりの目的を達成しています.氷の表面の薄い液体状の層の表面の熱揺らぎを測定し,それを解析するために新たな手法も開発しました.氷はあらゆるところに存在するため,多くの分野にとってその性質は重要であり,非常に研究が多い分野です.しかし,我々のように表面の一様性と非一様性をスキャンしてはっきりと捉えた研究は過去には無かったので,この分野に新たな方向からの研究の道を開き,影響を与えることが期待されます. また,有限温度の物理学は熱揺らぎの根底にありますが,その基礎を支えるカオス理論に関する研究成果を得たことは,本研究の理論的基盤にも寄与することが期待されます. これらの研究について,共同研究者と合わせて査読付き国際雑誌に3件論文を発表し,国内学会で3件発表しています.また,研究を通じてさらなる研究方向,研究プロジェクトが生まれており,順調に研究は進行していると考えています.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は研究目的に沿って,順調に進行しています.さらに,研究計画に沿って発展させていきます. 氷の表面の研究は一部の成果を発表しましたが,まだ発表していない成果が多くあり,これらについて論文を作成し,発表していきます.特に我々のようなアプローチで氷の表面融解を研究しているグループは他におらず,他の結果にとって重要な相補的な役割も果たすと考えています.我々が初めて表面層の厚さを空間的一様性と非一様性を明確に解析したので,この分析をさらに進め,発表することを計画しています. また,今までに扱ったことの無いような新マテリアルの性質の研究に他グループと共同で着手しています.現在までの我々の研究では,一般に信じられている通常のニュートン液体の性質とは大幅に異なる物性を持っていることが示唆されます.この点について,明らかにし,成果を発表していく予定です.また,新たな分野であるために研究の発展の余地は大きいと考えています. 有限温度物理学の根底にあるカオス系のダイナミックスの研究は多くあり,数値計算の発展により,色々明らかになっています.しかし,まだ,基礎的な部分で未解決の問題が多く残っており,現在までの我々の研究の成果を基にこのような基礎的な問題について新たな研究プロジェクトを計画をしています. さらに,我々の散射雑音を除去した測定法の基礎理論は深くは解析されていないので,他の雑音除去方法と比較した際の有利,不利な点を含め,その有効性について検証し,発表する予定です.
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Causes of Carryover |
事業は研究計画通りに概ね順調に進んでいますが,2018年度は,主に旅費の出費が予定よりも少なかったので次年度使用額が生じました.複数回,国内の学会で発表しましたが,他の資金からの援助もあり,予定ほどは旅費の出費が必要ではなかったことが理由の一部です.さらに,海外における学会では日程が参加可能かつ内容が適切なものが無かったため,海外に出張をしなかったことも理由の一部です.2018年度は新たな器材の導入よりも,実験解析に多くの力を使ったので,機材の購入は予定より少なくなりました.2019年度も,実験と理論の研究をさらに進めていきます.実験器材と理論解析に必要な計算機と周辺機等に出費をする予定です.さらに,日程かつ内容が適切な国内,海外の学会に出張し,成果を発表するために,必要に応じて旅費を用いる予定です.
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Research Products
(6 results)