2016 Fiscal Year Research-status Report
光近接場における局在光‐冷却原子間の高次相互作用の観測およびメカニズムの解明
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15K05234
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
東條 賢 中央大学, 理工学部, 准教授 (30433709)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 冷却原子輸送 / エバネッセント場 / 多重極子遷移 |
Outline of Annual Research Achievements |
レーザー冷却原子の高精度操作手法の開発が必要であり,本研究で必要なガラス表面への冷却原子導入のこう安定化を計ると共に表面原子からの発光観測機構の開発を行った。まず2016年度では髙安定化した磁気光学トラップシステムから光トラップへの高効率移行の最適化を行った。これまでは40μK程度の10の6乗程度の原子集団を光トラップへ移行していたが,冷却機構の改良および光トラップの設計変更を加え10μKの4倍程度の原子を移行することができた。ガラス表面への原子数はこれまでの1桁多い10の6乗弱へと大幅な改良を実現した。この高効率移行について論文にまとめ投稿中である。次に,これまで実現していたガラス表面の定在波内の閉じ込めおよび横方向からの吸収撮像による観測に加え,ガラス上方の半球レンズ越しの新規光学系を整備し表面近傍原子からの発光観測に成功した。また通常の5S-5D遷移(778 nmの2光子)の光源であるチタンサファイアレーザー装置を整備し,磁場依存の2光子遷移スペクトル観測を行った。D状態はS状態と比べて磁場に対して感度が高く異常ゼーマン効果の低い磁場での観測が期待できる。実験では測定器の超低ノイズ化を施し,異常ゼーマン効果であるパッシェンバック効果の測定に成功した。スペクトルの磁場依存性を明らかにし波長安定化の準備が整った。 また特殊なナノ構造を有する表面近傍の光近接場について,前年度から引き続き数値計算を行った。光学禁制遷移である電気多重極子遷移の励起効率は,光電場振幅ではなく光電場勾配の次数が多重極子の次数に関係がありさらに光電磁場の球面調和関数展開と原子の球面調和関数が大きな結合をする可能性を示すことがわかった。その結果,多重極子遷移が数桁以上の増強効果を得ることを得て,今後のナノ構造体の設計方針を固めることができた。数桁の増強効果については学術論文誌にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では「高効率移送のための光トラップの改良」「5S-5D遷移のためのスペクトル測定を用いた波長安定化」を主な目的としていた。2016年度では現有の真空装置を用いた光トラップおよび輸送システムを改善し,非球面レンズを用いた高感度高解像度を有する新しい分光観測システムの構築を実現した.これにより2015年度の1桁以上多くかつ低温の原子集団の輸送に成功し,初めてガラス近傍原子からの発光を観測した.磁気光学トラップからの直接光トラップへの原子の移送では,従来の手法よりも高密度かつ低温の移送にも成功し現在論文を投稿中である.また新規に立ち上げた自作光源を用いて冷却原子に対する2光子遷移スペクトルの観測にも成功している.他方,室温セルを用いた非共鳴型2光子遷移スペクトルの磁場依存性についても高感度測定による定量評価を実施した.これまでは定性的な議論に収まっていたパッシェンバック効果についても数値計算との直接的比較によって定量的評価を初めて実現し,励起D状態の磁場依存性を明らかにした.現在は室温セル2光子励起スペクトルにロックインアンプを介してフィードバックするシステムを構築済であり,光源の安定化の準備が整っている. また今後作製する表面ナノ構造体の設計指針を構築するために,ナノ構造を有する表面近傍の光近接場について前年度から引き続き数値計算を行ってきた.光学禁制遷移である電気多重極子遷移の励起効率は,光電場振幅ではなく光電場勾配の次数が多重極子の次数に関係し,光電磁場の球面調和関数展開と原子の球面調和関数が大きな結合をする可能性を示すことがわかった。その結果,多重極子遷移が数桁以上の増強効果を得ることを得て,ナノ構造体の設計指針を固ることができた.数桁の増強効果については学術論文誌にて既に発表済である. 以上により当該研究は当初計画と比較しておおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
上の進捗状況を鑑み,昨年同様に現有の真空槽でも当初予定していた多くの研究が可能であることがわかったため,引き続き2017年度でも新規真空槽の作製より優先してガラス表面近傍冷却原子の相互作用の観測を行う.まず,安定的に輸送を実現した冷却原子集団に対し,光ポンピングを用いたスピン操作を行い,スピン制御された冷却原子を用いて2光子スペクトル測定を行う.実現した2光子スペクトルの観測では多くのスピン状態を含むためスペクトルが複雑化し現状では定量的評価が難しい.スピン操作によりスピン偏極した原子集団を用いてスペクトルの同定を定量評価,また共鳴周波数シフトや線幅および励起効率の評価を行い自由空間と表面近傍の差を議論する.また,非共鳴2光子遷移(778 nm)の観測のためのチタンサファイアレーザーの周波数安定化を実施する.現在,用意した自作フィードバック回路を用いた,磁場依存の2光子スペクトルから20G程度の印加磁場による周波数ロックを準備している.周波数安定化した光源を用いて冷却原子への照射について,経路についてはすでに別の実験により実現している.スピン偏極したトラップ中の冷却原子集団非共鳴2光子遷移スペクトルの測定を実現し,磁場依存性および光強度依存性を高精細に評価する.さらに,表面近傍に輸送したときの非共鳴2光子スペクトルの観測を行う.この非共鳴2光子遷移用の光源は,現有の2次高調波発生器を用いて5S-5D遷移である電気四重極子遷移(389 nm)のレーザー光を作ることができる(発振については確認済).5S-5Dの電気四重極子遷移では励起効率が3桁程度低いことがわかっているが,冷却原子を用いた高感度測定と2光子遷移を用いた5D状態の同定によって観測できると考えている.観測できない場合は,5S-7S(380nm)の磁気双極子遷移の光源も現有装置で発振可能でありスペクトル測定を行う.
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Causes of Carryover |
当初計画では新規真空槽を設計および製作する必要があり,真空装置本体および周辺部品の作製および整備費として計上していた.また合わせて表面ナノ構造体の作製についても当初外部民間企業を予定していたため必要経費として計上していた.一方で,現有の真空装置に対して新たに異なる波長のレーザー光を照射する2光子遷移実験を行う上で,追加光学部品および光学結晶としての消耗品費,レーザー光源や環境磁場補正およびレーザー冷却用光源観測系の安定化のために自作回路用電気部品や機構部品が必要となったため消耗品の購入が比較的多くなったが,当初計画用途である真空部品および装置と比較して20万円程度の差異が生じている.しかし,2016年3月に査読付き論文の論文掲載が受理されており,2017年度にオープンアクセス掲載料として20万円程度の費用がかかることがすでにわかっており,差異分はこの費用として充てる予定である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記に示したように,前年度の差異分20万円は2016年度末に掲載決定された査読付き論文のオープンアクセス掲載料(20万円程度)に充てる予定である.この成果は2016年度で行った研究の成果であり,差異分を充当するのに適している.
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Research Products
(7 results)