2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K05239
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
早坂 和弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所・量子ICT研究室, 研究マネージャー (10359086)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イオントラップ / 共振器電磁量子力学 / 超放射 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記述した実施計画(1)から(4)について、以下の実施結果を得た。 (1)イオン集団超放射に関する数値シミュレーションでは、Tavis-Cummingsハミルトニアンを用いたマスター方程式の時間発展を解くことにより、8個までの小数個Ca+イオンの系でも共振器のパーセル効果による放射寿命変化と超放射による放射寿命変化を識別できることが分かった。計算に使用したソフトウエアの制限により、イオン個数は8個までに限定された。また、計画には無かった半古典的近似による多数個イオンの超放射に関する計算を実施し、1000個程度のCa+で超放射発振が観測できることが分かった。 (2)線形トラップおよび共振器の設計では、数値シミュレーションをもとに、Ca+の超放射による放射寿命の観測が可能な長さ25mmの光共振器と、この内部に収納されるイオントラップ電極の設計を完了した。 (3)(4)イオントラップ電極の製作が予定よりも遅れたために、現存するイオントラップ電極でCa+のトラップ、レーザー冷却実験を実施した。実験の結果、(a)16個までのCa+が直線状に配置すること、(b)Ca+イオン間隔がDC電圧により理論通りに制御可能であること、(c)Ca+イオンが遷移波長729nm以下に局在されていることが、確認できた。また、計画には無かった2D5/2遷移の放射寿命の測定実験を実施し、誤差0.7%の精度で放射寿命が測定できること、光共振器無しの状態で複数個イオンを配置しただけでは放射寿命の変化が観測されないことを確認した。 以上のとおり、小数個イオンでも超放射現象が理論的に観測できると予測できることが明らかになり、超放射による放射寿命の変化が観測できる実験系を構築することができた。また、1000個程度までのイオン系が実現できると、超放射発振が期待されることが理論的に明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記述した実施計画4項目は、(1)イオン集団超放射に関する数値シミュレーション、(2)線形トラップおよび共振器の設計、(3)イオントラップ電極の製作、(4)イオントラップ実験、であった。 この4項目のうち、イオントラップ電極の設計を慎重に行ったため、(3)イオントラップ電極の製作、はH28年度以降で実施することとなったが、(1)(2)および、代替のイオントラップ電極を用いて実施した(4)は計画どおりに完了した。 また、(1)では計画には無かった多数個(100個以上)のイオンでの計算を、計画には無かった手法で実施することにより、1000個程度のイオン集団により超放射発振が起こる可能性があるという新しい知見を得ることができた。さらに(4)では計画を前倒しして、Ca+の2D5/2状態の放射寿命測定法の実装および検証実験を行うことができ、超放射による放射寿命変化が0.7%以上あれば観測できることが実験的に明らかになった。 以上により、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も申請時の計画通り以下の研究を継続する。 (a)光共振器の製作と特性評価:イオン集団の超放射の起源となる量子力学的な不可識別性を導入するための光共振器を製作し、フィネス、透過率、共鳴周波数ロックの安定性、等の特性評価を実施する。 (b)光共振器と新イオントラップ電極の組合せ:H27年度に設計した新イオントラップ電極に、上記(a)の光共振器を組合せ、実際にCa+イオン列をトラップしレーザー冷却を行う。課題として、光共振器を構成するミラーによるイオン運動の擾乱が懸念されるが、顕在化した場合にはイオンを遮蔽する補助電極の導入等を検討したい。 (c)イオン列の光共振器への結合実験:光共振器中に弱いレーザー光でモードを励起し、モードとの結合によりCa+の共鳴蛍光強度が変化することを用いて、モードと結合するイオン個数を特定する実験を実施する。また、この個数を最大化する最適化実験を行う。課題として、調和ポテンシャルによる制限のため結合できるイオン比率が100%にならないことが懸念される。非調和ポテンシャルでは100%近いイオンが光共振器モードに結合できることが理論的に予想されるため、イオン比率の問題が顕在化した場合には非調和ポテンシャルを実現するイオントラップの導入を検討したい。 (d)超放射観測実験:超放射によりCa+の2D5/2状態の放射寿命が短くなることが予測され、この変化はH27年度に開発した寿命測定法により検出することができると考えられる。この実験が本研究課題の最終目標となる。 (e)超放射発振へ向けた予備実験:本研究課題で得られた新たな知見は、多数個(1000個)程度のイオン列での超放射発振が期待されるということである。可能な場合には実験(d)の拡張として多数個イオン(10個以上)での超放射観測実験を実施し、超放射発振の可能性を実験的に明らかにしたいと考える。
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Causes of Carryover |
年度最後に購入した物品(イオントラップ駆動電圧評価装置)の価格が、業者(3件の見積書取得)の値引きにより、想定より安価となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
光共振器製作用の光学消耗品購入に充てる。
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