2016 Fiscal Year Research-status Report
新規な相転移ダイナミックスの統計力学の構築による異方性ゲル化の解明とその応用
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15K05241
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
山本 隆夫 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80200814)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土橋 敏明 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30155626)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 異方性ゲル / 高分子鎖の配向 / Moving-Boundary 描像 / 血漿 / トランスグルタミナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)化学ポテンシャルが一軸方向(z軸方向とする)に傾斜している濃厚溶液系の動的モンテカルロ市ミューレションを行い、高分子鎖の移動速度と高分子鎖の形状の関係を調べた。その結果、移動速度が速い高分子鎖はz軸に垂直な方向に広がり、遅い高分子鎖は平行な方向に広がっていることが分かった。この結果は、移動速度の違いによる高分子鎖の配向という新たな配向メカニズムの存在を示している。 (2)カルシュウムイオンによる血漿のゲル化のダイナミックスの測定を行うと共に、その結果を説明できる理論をMoving-Boundary描像に基づき構築した。架橋現象と環境変化の二つのファクターが混在した新しいダイナミックスであることが分かった。 (3)透析外液からの流入架橋剤を消費しないタイプのゲル化ダイナミックスの理論をMoving-Boundary描像に基づき構築した。その理論が適用可能な実験系として、トランスグルタミナーゼ溶液にゼラチン溶液を浸漬した系を選び、実験を行った。理論は、ダイナミックスはトランスグルタミナーゼ濃度にもゼラチン濃度にもよらずゼラチン溶液の入っている容器の形状のみによる普遍的なものであるという予想がされたが、実験はその予想どおりの結果を示していた。さらに、実験からゲル化に遅れてゲルの配向が起こることが分かった。この配向ダイナミックスを自由エネルギーの最小化原理に基づく運動方程式(Ginzburg-Landau(GL)型方程式)で説明することを試みた。実験データを説明するには、ゲルの自由エネルギーを最小にする構造が流入したトランスグルタミナーゼの濃度に依存する必要があることが分かった。 この系はゲル化と配向が同時に起こらず時間差がある初めての系であった。この系では境界ゾル溶液という概念ではなくゲルと配向ゲルをつなぐ境界ゲルという概念を導入する必要があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はH27年度の実施状況報告書の計画Ⅳ~Ⅷに従って遂行した。 (i)計画Ⅳ、Ⅴについては研究実績(1)である程度の成果を得られたと考えた。化学ポテンシャルの傾斜だけで配向が起こる理由は、配向により運動する高分子鎖の回転対称性が破れる(この理由は今後検討する必要がある)。対称性が破れ化学ポテンシャルの配向方向に伸びた高分子鎖の運動はゆっくりで、配向方向と垂直な方向に伸びた高分子鎖の運動は速い。結果、ゲルの成長点には配向方向と垂直な方向に伸びた高分子鎖があつまりゲル化が開始される。のこったゆっくりと運動していた配向方向に伸びた高分子鎖がゲル化される。これにより、配向方向が変わることがあることが説明できる。 (ii)計画Ⅵ、Ⅶについては研究実績(3)の配向化ダイナミックスの構築である程度の成果が得られたと考えた。異方性ゲルとゲルの境界面の自由エネルギーであるが秩序変数Ψと架橋剤密度ρの関数として実験結果をある程度説明できる関数を作ることができた。研究計画策定時には想定していなかった、ゲルができてから配向が開始するという新しいタイプの配向メカニズムの存在と簡単ではあるがそれを記述する理論が構築できたことは十分な成果と言えるであろう。 (iii)計画Ⅷについては研究実績(2)および研究実績(3)の新しいタイプのゲル化ダイナミックス理論の構築と実験による確認である程度成果が得られたと考えた。異方性ゲルとゾル溶液の境界面だけでなく異方性ゲルと等方ゲルの境界面にも境界溶液と考えられるものを想定する必要があることが分かったことは十分な成果と考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
計画Ⅸ:回転対称性が破れた状態を初期状態とした化学ポテンシャル傾斜を持つ動的モンテカルロを行い、移動速度、高分子形状の時間変化を測定し、そのデータを説明する現象論を構築する。これにより、化学ポテンシャルの傾斜により濃厚高分子溶液中の高分子鎖の形状の回転対称性が破れる理由を解明する。 計画Ⅹ:境界溶液の自由エネルギーを導出するためには、高分子鎖の回転対称性が破れた束縛条件下での高分子濃厚溶液やゲルの自由エネルギーの基本的性質を導く必要がある。ゴム弾性の理論を出発点にして、高分子鎖の形状の回転対称性が破れた濃厚高分子溶液の自由エネルギーおよび異方性ゲルの自由エネルギーを導出する。 計画XI:実験から境界溶液の自由エネルギーとしてエネルギー障壁を持つものと持たないものの2通りが存在することが分かった。数式上では、その違いは架橋剤濃度場が秩序変数Ψの1乗とカップルするか2乗とカップルするかの違いでしかない。この違いの意味を、実験で求めた自由エネルギーを計画Ⅹで求めた自由エネルギーと対比させることで、実験から求まった境界溶液の自由エネルギーの示している実験系の重要な特徴を見つけ出す。 計画XII:高分子鎖の動的異方化と同じ異方化が可能な外場を導入することで動的に異方化した高分子溶液と等価な構造を平衡状態で作り出す。この平衡状態の示す性質と計画XIの結果と比べて境界溶液の性質を考察する。 計画XIII:計画XIの結果に基づき、異方的ゲル化の新しい方法を考案する。
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Causes of Carryover |
28年度のガラス器具の消耗が予想より少なかったことと計算機パーツの購入が予想より少なかったことより少額のあまりが出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度使用予定のガラス器具および試薬の購入経費、計算機パーツの購入経費として当てることにする。
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Research Products
(9 results)