2016 Fiscal Year Research-status Report
ファネル気体モデルによる細胞内混み合い環境下でのタンパク質複合体形成
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15K05246
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
菊池 誠 大阪大学, サイバーメディアセンター, 教授 (50195210)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | タンパク質折れたたみ / 分子混雑効果 / 格子気体モデル / ファネル描像 |
Outline of Annual Research Achievements |
白井・菊池のファネル気体モデルでは、内部状態が変性状態のときのみエントロピーの寄与があるという仮定を置いてモデルを簡単化したが、今年度はそれを拡張し、さまざまな内部状態がエネルギーとエントロピーの両方の寄与をもつ一般的な自由エネルギーランドスケープを格子気体の枠組みで扱えるよう、ファネル気体モデルの新たな定式化を行った。 以前と同様にタンパク質分子を正準集合で、また「混み合い分子」を大正準集合で扱うことにより、混み合い分子の効果として排除体積効果のみを考える限り、混み合い分子とタンパク質とを含む系の大分配関数は混み合い分子を含まない系の分配関数と厳密に等価であることが示された。この時、混み合い分子の効果は各内部状態の自由エネルギーを「有効自由エネルギー」と置き換えることで完全に取り込める。この有効自由エネルギーは元の自由エネルギーに内部状態の体積と混み合い分子の濃度とで決まる自由エネルギーを加えた簡単なものである。 ファネル気体モデルに対して導出された有効自由エネルギーの公式が一般のタンパク質のモデルでも近似的に成り立つものとみなすと、タンパク質の折れたたみ問題に適用できる。つまり、混み合い分子がないときのタンパク質の自由エネルギーランドスケープが求められていれば、分子混雑効果を取り入れた時の自由エネルギーランドスケープは上の公式から求められる。一般に分子混雑はタンパク質の折れたたみを促進すると考えられているが、それを自由エネルギーランドスケーブの変化として理解できるわけである。 今年度は簡単のために格子・郷モデルを用いて四つのタンパク質の自由エネルギーランドスケープを計算し、有効自由エネルギーの公式を適用した。その結果、分子混雑の影響で変性状態の中でも体積が大きな構造が不安定かすることによって、天然構造が安定化することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はファネル気体モデルの一般的な定式化に成功した。これにより、今後、タンパク質と混み合い分子が多数共存する系でのタンパク質折れたたみや構造形成などを計算機シミュレーションで研究する際、混み合い分子をあらわに取り入れなくても有効自由エネルギーとして分子混雑効果を考慮できることになり、計算の見通しが非常によくなる。タンパク質集合体を格子気体として扱うモデルは過去にもたくさんあるが、タンパク質の内部状態にファネル的な自由エネルギーランドスケープを与えたモデルも分子混雑効果を厳密に取り入れたモデルも過去になく、新しい成果である。 また、その結果を応用して、タンパク質折れたたみに対する分子混雑効果を具体的に求めることができた。もちろん近似の適用限界はあるが、これまでにない見通しのよい結果である。 これらはいずれも当初の研究計画では予想していなかった成果であり、その点では充分な成果が挙げられたと考えているが、成果発表が学会発表に留まり論文発表にまで至らなかったことから、進捗状況の評価は(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度の成果を現在論文としてまとめているところであり、論文発表を最優先とする予定である。 また、格子上のファネル気体モデルに関して、排除体積効果を厳密に取り入れる定式化ができたことから、申請時に予定していたように連続モデルに進むのではなく、格子版のファネル気体モデルをさらに発展させる方向で研究を進めることとする。 具体的には、これまでの結果を受けてタンパク質折れたたみのミニマルなモデルを構成する。それを用いてタンパク質が多数ある場合の折れたたみと分子混雑の関係を解析する。さらに、タンパク質間に相互作用がある場合のファネル気体モデルを構築する。分子混雑効果は有効自由エネルギーとして取り入れられることがわかったので、必要なのは混み合い分子がない場合のタンパク質相互作用のモデルである。これについては、現象論的なファネル気体モデルでの計算と格子タンパク質モデルに基づくより現実的な計算とを照らし合わせつつ、相互作用がある場合のファネル気体モデルを洗練させる必要がある。より一般的な多量体形成まで研究を進めることが目標であるが、少なくとも二量体形成のモデルまでは完成させるつもりである。
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Causes of Carryover |
予定していた国際会議に参加できなくなったことと、論文投稿予定が次年度にずれこんだため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度前半に国際会議に出席して研究成果を発表し、また、論文を完成させて投稿する
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Research Products
(3 results)