2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05276
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
加藤 學 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 名誉教授 (80115550)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 月・水星 / 衛星画像 / 比較惑星学 / クレータ地形 / メッセンジャー衛星 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、昨年5月に観測を終了したNASA水星探査機MESSENGERの観測データを解析し、月と水星の類似点、相異点を明らかにすることによって小型の地球型惑星の起源と進化に手がかりを得ようとするものである。分光カメラMDIS観測では全球の表層画像を取得し、NASA PDSから公開された。月の画像データは「かぐや」、NASA月探査機「LRO」の高空間分解能のものが公開されているので水星との比較惑星学を開始する。 申請者は、アメリカ地質調査所が無償公開している統合解析ソフトISISをLinux ワークステーション(新規購入)に搭載してPDSから画像データをダウンロードできる環境を整え、特徴地形毎にモザイク画像の作成を行った。約500カ所の特徴地形のモザイク画像を作成した。 月画像は「かぐや」と「LRO」の高空間分解能画像に注目して水星地形と比較する目的で画像データをJAXAのDARTSとPDSから収集し、ISISを使ってモザイク画像を作成した。 月・水星ともに絶え間なく現在まで降り注ぐ小天体が衝突クレータを形成し、内部熱活動により生成されたマグマの噴出、表層の冷却収縮による割れ目などの地形が見られる。月・水星の相異点は、1.クレータの形態ではボウル型、中央丘型、多重リング型が直径の小さいものから大きいものへ遷移することが共通にある。2.中央丘型・ボウル型遷移は月30km程度に対し、水星10km程度と小さくなっている。衝突速度、地殻物質の違いが反映されているのであろう。3.画像には反射スペクトルの不均一や縞模様が広範囲に見られ、組成の異なったマグマの複数回の噴出があったことを示す。4.月ではマグマの中に磁気異常により形成されたと思われる縞模様が見られるが、水星では見つかっていない。5.水星ではマグマに冷却過程で揮発性物質が突沸してできた泡状の地形や割れ目が見られる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、新たに得られた水星探査機の観測データ、特に詳細で大量な画像データを収集し、クレータなど特徴地形のモザイク画像を作成すること、大きさが近く、大気を持たない天体である月と水星の表層地形の比較惑星学のため、月の画像データも同じワークステーション上で共通ソフトウェアで取り扱う手法を確立することが、研究の出発点である。データの取り込み要領から統合ソフトウェアISISの取り扱いまで世界では実行している研究者が多数いると推測できるが、わが国ではポピュラーではない。特に水星の衛星データは未知である。したがって試行錯誤を繰り返さなければならないこともあったが、初年度の目的は達成できたと考えている。 当該課題の推進には画像をより詳細に観察することが必要である。そのため、援用に必要な物質データ、地形データを吟味して的確なものをそろえることが要求される。これら次の発展への布石が十分にできなかったことが、計画以上の進展と言えない理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、新たに取得されたNASA水星探査機の観測データを月探査機、「かぐや」、NASA「LRO」のデータと共通のデータ解析プラットフォームで利用できるようにすることが技術的課題であった。画像データについてはほぼ予定どうり達成できたと考え、順調な進展と評価した。本研究の目的は月と水星の探査機データを使った比較惑星研究により小型地球型惑星の起源と進化の解明にせまろうとするものである。画像データは利用に目途がついたので、次は他の観測項目データの取り込みである。高度計データ、鉱物組成・元素組成データ、重力場データ、磁力計データが月・水星共通観測データとして存在する。究極の分解能と言われる観測機器が搭載されている月探査機によるデータと過酷な環境で観測した水星探査機データに大きな質・量の違いがあることは容易に推測できるが、限界を見極めることができるであろう。次の水星探査機BepiColombo観測運用に役立てることを考える。 申請者は、本研究のような公開データを処理して科学研究を行う方法を採用したことは30年研究経歴で一度も無い。申請者にとっては全く新しいことを試みた。本年度は処理方法の確立にエフォートを割いてしまったので、科学研究のまとまった成果を出すことはできなかった。従って成果発表の講演や論文発表には至っていない。今後の研究では成果をまとめることを考えていくこととする。
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Causes of Carryover |
平成27年度に取得したMESSENGERによる水星観測データと従来探査機による月観測データを比較して平成28年度本研究を発展させる。 10 km程度以上の大きさの地形を最小ユニットとしてその領域の画像と高度計データから月と水星の地形の類似点、相異点の区分けを全球について実施する。溶岩が噴出してクレータ底を埋めているクレータの割合を、クレータの大きさ、溶岩の組成、月に見られる縞模様の存否、地域依存性などから表層火成活動の相異点が理解できる。 水星表面ではパンテオン渓谷に代表される熱収縮構造が顕著に見られるが、、月では顕著ではなく、小規模の溶岩の固結収縮に起因すると思われるクラックが多くのクレータ底で見られるのみである。熱収縮構造の形状、大きさ、地域依存性の解明から後期の表層火成活動の違いが明らかになる。詳細な高度データや構成物質データを利用して実態を把握し成因を解明する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、27年度の手法の確立成果を踏まえ、水星と月の表層進化過程を解明する。そのため必要な消耗品費の他、他の研究者との議論や他分野の研究者、一般の人々への普及活動のため、小型軽量なモバイルワークステーションを新規購入する。研究遂行のため平成27年度と同様な旅費、消耗品費が必要である。また27年度先送りになってしまった論文投稿も必ず行う必要があるため、論文の校閲費、投稿費を計上する。
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