2016 Fiscal Year Research-status Report
| Project/Area Number |
15K05282
|
|---|
| Research Institution | Miyagi University of Education |
|---|
Principal Investigator |
菅原 敏 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (80282151)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
| Keywords | 成層圏 / 重力分離 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
平成２８年度には、主に重力分離の数値モデルと観測データを用いて、重力分離と成層圏大気循環の変動の関係について理論的な研究を進めた。対流圏から成層圏にかけて鉛直数十kmの大気において存在している重力分離が、どのようなタイムスケールで時間発展するのかはこれまで明らかにされていなかった。このことは、特に大規模な成層圏の大気循環の変化が、重力分離にどのような影響を及ぼすのか、また逆に、重力分離の分布や変動から大気循環の変化を検知できるのか、という重力分離を応用する本研究課題にとって重要な点であった。そこで、１次元鉛直移流渦拡散分子拡散モデル、および２次元大気化学輸送モデルの２つの数値モデルを用いて、質量数が異なる二つの仮想同位体気体成分をシミュレートし、それらの完全均質大気（同位体比が全大気で一様な状態）から分子拡散分離による平衡状態に達する時定数を推定した。その結果、成層圏下部の２０～３０km付近では分子拡散分離が準定常状態に達する時定数が５～８年程度であった。この時定数が一般的な分子拡散の時定数に比べて極めて短時間である理由は、平衡状態と完全均質状態との差が非常に小さいためであると考えられる。さらに、非定常状態での重力分離の応答を調べるために、１次元モデルを用いて、成層圏下部の渦拡散係数に周期的な変動を与えたときの重力分離の変動を調べた。その結果、数年以下の短周期変動が重力分離に与える影響は極めて小さいと予想された。これらの研究成果は、国内学会および国際学会において発表した。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の新たな成層圏大気の観測の成功と、その後の大気サンプル分析の成果により、北半球中緯度における成層圏大気の平均年代と重力分離の鉛直分布が明らかになった。これらの観測結果を解釈するため、当初の計画どおり、既存の数値モデルを修正し、現在の数値モデルでは考慮されていない下層大気における分子拡散を新たに組み込み、成層圏や対流圏での重力分離を概ね再現することができた。特に、分子拡散のメカニズムとして、重力、濃度勾配、温度勾配のそれぞれに起因する拡散フラックスを組み込み、これまで不十分だった大気における分子拡散の理解を発展させることができた。数値モデルの計算結果を、観測で得られる重力分離の鉛直構造や緯度分布と比較し、既存の分子拡散の理論で重力分離がほぼ再現できることが確認できた。昨年度の新たな成層圏大気観測の成功に加えて、数値モデルによる研究の基盤が整いつつあることから、ほぼ計画通りに研究が進んでいると判断される。
|
| Strategy for Future Research Activity |
これまでの１次元および２次元の数値モデルを用いた理論的な研究を、さらに３次元に拡張し、残差平均子午面循環や鉛直・水平の混合過程をより現実的に再現することにより、それぞれのプロセスが重力分離に及ぼす影響を評価する。このモデル研究の推進の方策は既に連携研究者・研究協力者とともに研究会などを開いて方向性の検討を始めている。また、重力分離の長期変動を明らかにするため、連携研究者である産業技術総合研究所・石戸谷氏と協力して過去の成層圏アーカイブ空気の解析を進める。気球観測の結果とモデルによる理論的研究を有機的に統合し、それらの研究結果を論文としてまとめ、国際科学雑誌に投稿する予定である。
|
-
[Journal Article] インドネシア・ビアク島におけるクライオジェニックサンプラー回収気球実験2017
Author(s)
池田 忠作, 青木 周司, 森本 真司, 菅原 敏, 本田 秀之, 豊田 栄, 石戸谷 重之, 中澤 高清, 長谷部 文雄, 稲飯 洋一, 林 政彦, 柴田 隆, 後藤 大輔, Halimurrahman Mukri, Moedji Soedjarwo, Ninong Komala, Fanny A. Putri, Thohirin Chodijah, Agus Hidayat, Afif Budiyono, Thomas Djamaluddin, 飯嶋 一征, 田村 誠, 井筒 直樹, 吉田 哲也
-
Journal Title
宇宙航空研究開発機構研究開発報告
Volume: JAXA-RR-16-008
Pages: 33-48
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-
[Journal Article] Inter-comparison of stratospheric mean-meridional circulation and eddy mixing among six reanalysis data sets2016
Author(s)
Miyazaki, K., Iwasaki, T., Kawatani, Y., Kobayashi, C., Sugawara, S., and Hegglin, M. I.
-
Journal Title
Atmos. Chem. Phys.
Volume: 16
Pages: 6131-6152
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-
[Presentation] Age of air and gravitational separation in the stratosphere over Indonesia2016
Author(s)
Satoshi SUGAWARA, S. ISHIDOYA, S. AOKI, S. MORIMOTO, T. NAKAZAWA, S. TOYODA, Y. INAI, F. HASEBE, C. IKEDA, H. HONDA, D. GOTO, and F. PUTRI
Organizer
2016 AGU Fall Meeting
Place of Presentation
San Francisco, USA
Year and Date
2016-12-12
Int'l Joint Research
-
[Presentation] 赤道上空成層圏における N2O 同位体比の鉛直分布2016
Author(s)
豊田 栄, 吉田 尚弘, 森本 真司, 青木 周司, 中澤 高清, 菅原 敏, 石戸谷 重之, 植松 光夫, 稲飯 洋一, 長谷部 文雄, 池田 忠作, 本田 秀之, 石島 健太郎
Organizer
平成２８年度大気球シンポジウム
Place of Presentation
宇宙科学研究所（神奈川県相模原市）
Year and Date
2016-11-01
-
-
-
[Presentation] Vertical distributions of N2O isotopocules in the equatorial stratosphere2016
Author(s)
Sakae TOYODA, Naohiro YOSHIDA, Shinji MORIMOTO, Shuji AOKI, Takakiyo NAKAZAWA, Satoshi SUGAWARA, Shigeyuki ISHIDOYA, Mitsuo UEMATSU, Yoichi INAI, Fumio HASEBE, Chusaku IKEDA, Hideyuki HONDA, and Kentaro ISHIJIMA
Organizer
The 8th International Symposium on Isotopomers
Place of Presentation
Nantes, France
Year and Date
2016-10-04
Int'l Joint Research
