2015 Fiscal Year Research-status Report
船舶観測データを用いた天皇海山列メインギャップを通過する底層流の定量的解明
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15K05283
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳本 大吾 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (40260517)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 深層循環 / 天皇海山列 / 通過流量 / 地衡流流速 / 直接流速観測 / 係留観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
北大西洋北部に端を発して南極海で変質を受けながら世界の海洋に底層水を満たしていく地球規模の深層循環が、北太平洋においては、中央部に南北に連なる天皇海山列のどこをどのぐらいの流量で西から東に抜けるのかを明らかにすることが本研究の最終的な目標である。本研究では一つの有力な候補である最深かつ最大の切れ目(メインギャップ)に焦点を当てて観測研究を行うこととし、27年度は、28年度に実施される白鳳丸研究航海にむけて観測準備を行うとともに既往のデータの解析を行った。 データ解析については、気象庁が2012年に観測してホームページで公開している船舶CTD観測データを用いて実施した。およそ50km間隔で得られた海水密度の鉛直分布から流速を力学的に推定した。この地衡流流速はあくまで鉛直方向の流速差しか計算できず、適当な深度における基準流速を仮定しなければ絶対的な流速にならない。水深2000mの流速が0であると仮定して計算するとメインギャップでの5000m深での流速は西向きに毎秒1 cmと得られた。一方、船底に設置された流速計によって測点間の移動中に計測された水深500mの流速を基準流速とすると、同流速は東向きに毎秒2 cmとなる。しかし船底流速計で得られる流速には力学計算に含まれない潮汐などの短周期の変動成分が含まれており、地衡流流速と相なじむものではなく、この結果はあいまいなものである。メインギャップを通過する流量の推定は船舶CTD観測データの解析からは非常に困難であり、流速の直接観測が必須であることがわかった。 28年度の観測に向けての準備は順調に進んだ。気象庁や気象研究所、北海道大学水産学部などの協力を得て、より精度の高い係留観測を実施することにした。そのため既存の係留切離装置のオーバーホールを実施し、係留用金具など消耗品を購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
申請時に予定されていた平成27年度の白鳳丸研究航海が船舶運航上の理由により平成28年度に延期された。さらに、既往データの解析結果から、一回の船舶CTD観測では天皇海山列メインギャップの流速が西向きなのか東向きなのかさえも判定できず、より時間的代表性のある係留観測をしなければ本課題の目標は達せられないことが判明し、28年度の白鳳丸観測航海で係留系を設置することを決めた。これにより、最終年度の29年6月に実施される北海道大学の練習船おしょろ丸での回収によって初めて重要なデータが得られることとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年6月に実施される白鳳丸航海において、天皇海山列メインギャップ周辺の海水特性(水温、塩分、溶存酸素、栄養塩)を詳細に調べる。それにより底層水の分布を面的に細かに捉えて、南極由来の底層水がメインギャップに浸入する実態を探る。さらに、同航海にてメインギャップの中に係留系を南北に2系設置する。係留系には1系に4台の高精度な音響式流速計をとりつけ、1年間係留して時間的に代表性のある流速を得る。回収は29年6月に実施予定の北海道大学練習船おしょろ丸の航海で行う。回収次第、相関解析や時系列解析などデータ解析を実施し、天皇海山列メインギャップにおける底層流の流量を判定する。28年に得られる底層水分布とあわせて北太平洋深層循環による東西海水交換の描像を得る。
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Causes of Carryover |
新規に流速計を購入するのに200万円、多層流速計のバッテリーケースに70万円の支出を予定して平成27年度の予算として請求したが、研究成果を最大にするため、既存の係留流速計や切離装置を使用して係留系による観測を実施することとし、切離装置の整備に120万円を支出したのにとどまったため差額が生じた。平成28年度の始まりに近い6月に白鳳丸航海にて係留系の設置を実施するため、係留系で使用する流速計や切離装置のバッテリーの購入(計70万円)を28年度に持ち越した。さらに当白鳳丸航海では海中の栄養塩濃度の測定を実施するため、これに必要な試薬の購入(計30万円)も28年度に持ち越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
係留機器のバッテリー購入費として70万円、試薬購入費として30万円、成果や進捗報告のための旅費として20万円、論文投稿料として20万円を計画している。
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Research Products
(3 results)