2016 Fiscal Year Research-status Report
例外的に保存の良い浮遊性有孔虫化石から読む鮮新世温暖期の北部日本海の海洋環境像
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15K05325
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
山崎 誠 秋田大学, 国際資源学研究科, 准教授 (40344650)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 鮮新世 / 浮遊性有孔虫 / 日本海北部地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,昨年度に引き続き青森県鰺ヶ沢地域の鮮新統~更新統舞戸層・鳴沢層の精査をおこなうと共に,日本海北部地域に分布する鮮新統層準のうち,秋田県能代市八峰町の天徳寺層最上部の地質調査および微化石試料の採集のほか,北海道上磯郡木古内町および北斗市山地に分布する茂辺地川層・富川の予察調査を実施した.前年度の調査により青森県鰺ヶ沢地域に分布する舞戸層最上部に鮮新統・更新統境界が追跡されることが明らかとなったことを受け,当該層準の追加調査を実施した結果,新たに複数の凝灰岩層を見出したほか,鮮新統・更新統境界付近に浮遊性有孔虫Globorotalia inflata sensu latoが卓越する層隼が確認された.先行研究に基づけば,同種は,鮮新世の末に新潟地域から秋田地域にかけて多産することが知られている.今回さらに,青森地域までこの多産が認められ,しかもその産出割合は最大で40%以上にも達し,南方の新潟地域と同等かそれ以上である.このことは,鮮新世末~更新世始めの日本海地域の中部から北部にかけて,同種を優占種とするような特異な環境が存在したことを示唆している.これに加えて,秋田県北部八峰町に分布する天徳寺層最上部から笹岡層最下部にかけて層位間隔1mで微化石試料を採集し浮遊性有孔虫群集解析および同化石の石灰質殻の同位体分析をおこなった.同地域の最上部鮮新統では,鰺ヶ沢地域と浮遊性有孔虫化石群集の産出傾向が異なり,G. inflata s.l.の産出に乏しいことが明らかとなった.それに加え,複数種の浮遊性有孔虫殻の酸素同位体比分析に基づくと,同地域の鮮新世末の海洋表層環境は活発な鉛直混合により特徴付けられる可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,日本海北部地域を対象とした調査トランセクトの基軸となる青森県鰺ヶ沢地域に加えて,南方の秋田県北部八峰町の塙川に分布する鮮新統~更新統の天徳寺層・笹岡層と北方に位置する北海道上磯郡木古内町および北斗市山地に分布する茂辺地川層・富川層の調査をおこなった.八峰町に分布する天徳寺層最上部は細礫から中礫混じりの淘汰の悪いシルト岩を主体とし,頻繁に礫岩薄層を狭在する.調査では,シルト岩から試料を採集し,微化石試料とした.調査の結果,調査層準で最も優勢なのはGlobigerina bulloidesでGlobigerina quinquelobaが随伴する.その他Neogloboquadrina pachydermaが産出量は少ないものの調査層隼を通して分布する.また,本研究で注目するG. inflata s.l.は,当初の予想に反して産出が限定的で,最大でも全浮遊性有孔虫に占める割合は3%以下にとどまる.産出種から複数種を選出し,石灰質殻の酸素同位体比を測定した.測定は高知大学海洋コア総合研究センターで実施した.その結果,天徳寺層最上部では,異なる種間の酸素同位体比がほぼ同じ値を示した.対象種の現在の海洋での生息深度を考慮すると,今回の結果は,調査地域の鮮新世末の海洋表層環境では表層から亜表層にかけて同質の海水が占めるような鉛直混合が活発な海洋環境を示唆する.これは,日本海沿岸の鮮新世末の海洋表層付近に極薄い暖流が存在(つまり海洋表層が強く成層した状況)していたという従来の説と必ずしも一致しない.この結果については,今後,日本海北部地域の古地理復元や,鰺ヶ沢地域での同位体分析も視野に入れて検討を継続する.その他,北海道上磯地域の茂辺地川層・富川層については,現地調査により得られた微化石試料について処理を進めている状況である.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに,青森県鰺ヶ沢地域と,秋田県八峰町に分布する鮮新統・更新統層隼の岩相調査および微化石調査に着手している.また,北海道上磯地域の茂辺地川層と富川層については,先行研究での地質年代の根拠に乏しいため,今後珪藻化石も用いて検討を継続する必要がある. これまでのところ,本研究で得られた浮遊性有孔虫化石の解析結果が指し示す日本海北部地域の鮮新世末の海洋環境は,必ずしも暖流の影響が支配的であったという従来の説を支持しない.秋田県北部峰浜地域での天徳寺層・笹岡層中の有孔虫殻の同位体分析が環境復元に有効である可能性が示されたため,29年度前半では,青森県鰺ヶ沢地域で採集した微化石試料について有孔虫殻の同位体分析に着手する.また,昨年度の分析結果から,青森県鰺ヶ沢地域の最上部鮮新統で全群集中の40%を越えるG. inflata s.l.の多産を確認している.これは,先行研究によって報告されている同一層準での新潟県から秋田県での同種の産出割合と比較してもかなり高く,同種の分布傾向解明に重要な証拠の一つを得たと言える.これを受けて,鮮新統最上部でのG inflata s.lの多産の北限がどの程度の地域にまで及ぶのかを明らかにする必要がある.そこで,北海道に分布する最上部鮮新統の調査を継続する.昨年度予察調査をおこなった上磯地域を継続的に調査する.もし石灰質微化石の産出が十分でない場合は,必要に応じてさらに北方の今金地域にまで展開し,試料の入手に努める.29年度後半は,以上の結果を統合し,鮮新世末の海洋表環境の復元を試みる.
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Causes of Carryover |
28年度は鰺ヶ沢地域での成果のとりまとめと,北海道上磯地域での予察調査,秋田県北部八峰町での地質調査および試料の採集に注力した.八峰町で採集した試料の処理は,自らで処理をおこなったため,当初予定していた,試料からの岩石抽出を主とする室内作業のための大学院生の雇用をおこなっていない.また,成果報告をおこなった学会が秋田県内で実施されたため,当初の予定よりも出張旅費の支出がおさえられたほか,有孔虫殻の形態解析について相談を予定している独国マックスプランク研究所のRalf Schiebel博士訪問は日程の調整中であり,未だ訪問に至っていない.以上の理由により,繰り越し額が発生している.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は室内作業を中心として,一部野外調査も補足的に進める.室内作業としては微化石の同位体分析試料の前処理を29年度前半に,必要に応じて追加の岩石試料処理を29年度後半に実施するため,それぞれ大学院院生を雇用する.地表調査としては,北海道上磯地域・今金地域と青森県鰺ヶ沢地域を予定しており,これらの調査旅費を支出する.
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Research Products
(2 results)