2016 Fiscal Year Research-status Report
沈み込む堆積物のトレーサーとしてBa安定同位体は有効か?
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15K05357
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
宮崎 隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, 主任技術研究員 (80371722)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | Ba安定同位体 / 表面電離型質量分析計 / TIMS / ダブルスパイク / 標準試料 / 海洋堆積物 / 火山岩 / 沈み込み帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度着手した、表面電離型質量分析計によるダブルスパイクBa安定同位体分析法の確立を引き続き行った。フィラメント昇温方法に若干の改善余地が残るが、イオン化フィラメントへの試料塗布方法、およびフィラメント昇温方法をほぼ決定した。また、堆積物や岩石試料からのBa分離抽出法を確立し、全自動カラム分離装置(Miyazaki et al., 2012)への適用を行うことで、効率的な前処理が可能となった。今回確立したBa安定同位体分析法の評価を行うために、昨年度調整した、ダブルスパイク溶液および標準試料溶液を使用して、繰返測定の精度を求めた。その結果、MC-ICP-MSによる分析法(Miyazaki et al., 2014)に比較して、本分析法では、繰返測定の精度が約1.4倍向上することが明らかとなった。また、産業技術総合研究所および米国地質調査所の地球化学標準試料のBa安定同位体分析を行い、既存データとの比較を行った。これらの結果は、JpGU-AGU Joint Meeting 2017で発表予定である。また、高精度Ba安定同位体分析を実現するために、昨年度開発した、効率的かつ正確な検出器効率係数(カップエフィシエンシーファクター)決定方法に関する論文のリバイスを行い、修正稿がGeochemical Journalに受理・公表となった。上述の検出効率係数決定方法開発に伴う、研究計画の遅延を解消するために、既に試料を入手している、伊豆-マリアナ、中央アメリカの島弧・陸弧の火山岩試料、およびこれら島弧・陸弧に沈み込む海洋堆積物試料のBa安定同位体分析を先行して行い、沈み込む海洋堆積物と同じ沈み込み帯において形成される火山岩のBa安定同位体の特徴解明を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、最終的に、島弧・陸弧火山岩のBa安定同位体比に、沈み込んだ堆積物の持つBa安定同位体比、および、その後の分別作用の影響が反映されるかどうかを明らかにすることが目的である。当初想定はしていなかったが、本研究目的達成に必要な、高精度Ba安定同位体分析の実現には、表面電離型質量分析計が持つ誤差パラメーターの明確化が必要であり、特に、検出器劣化や各検出器の性能差異に起因する誤差を正確に補正する必要があると判断した。そこで、平成27年度に効率的かつ正確な検出器効率係数決定方法を開発した。本方法は、Ba安定同位体分析のみならず、表面電離型質量分析計を用いたあらゆる元素の同位体分析にも応用可能であり、公表の価値が非常に高いため論文化を進め、平成28年度の論文リバイスを経て公表に至った。このため、平成27年度および平成28年度を通して、当初計画に遅れが生じたが、高精度Ba安定同位体分析の実現という面では、着実に進捗している。また、分析対象試料の再選定を行う事で、研究目的を効率的に達成することが可能と判断しており、研究計画の遅延が解消できる見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
表面電離型質量分析計によるBa安定同位体分析方法を最終的に確立し、学会発表および論文化を進める。既に試料を入手している、伊豆-マリアナ、中央アメリカの島弧・陸弧の火山岩、およびこれら島弧・陸弧に沈み込む海洋堆積物のBa安定同位体分析を引き続き行う。これらの結果から、海洋堆積物試料のBa安定同位体特徴および、地域・堆積深度・年代・結合塩種の違いによるBa安定同位体組成への影響を評価し、Ba安定同位体組成を変動させる要因について解明を進めると共に、伊豆-マリアナ、中央アメリカの島弧・陸弧を形成する火山岩の、Ba安定同位体組成の特徴を明らかにする。伊豆-マリアナ、中央アメリカの島弧・陸弧火山岩と沈み込む堆積物のBa安定同位体組成の特徴から、①.両地域で沈み込む堆積物のBa安定同位体比は異なるのか? ②.沈み込む堆積物は共通であるが、火山岩形成において、沈み込み堆積物由来メルトとフルイドの関与程度が異なる場合、島弧・陸弧火山岩のBa安定同位体比は、その関与程度と調和的に変化するのか? また、その値は、フルイドの関与が大きいほど重い値を持つのか? ③.②の結果を踏まえて、沈み込む堆積物のBa安定同位体比が異なる場合、島弧・陸弧火山岩のBa安定同位体比にその違いが反映されるのか? の3点を明らかにし、沈み込む堆積物のトレーサーとしてBa安定同位体が有効であるのか検証を行う。得られた結果は、国内および国際学会での講演と共に、論文を国際誌へ投稿し、成果の発表を行う。
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Causes of Carryover |
平成27年度に引き続き、表面電離型質量分析計の効率的かつ正確な検出器の検出効率係数決定方法の開発および論文公表に伴う研究計画の遅延により、海洋堆積物および火山岩試料分析が遅れており、そのために必要な試薬や実験機材を購入しなかったため。また、平成28年度は論文公表による成果発表を優先させ、学会発表を次年度としたことにより、旅費が発生しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海洋堆積物試料および島弧・陸弧の火山岩試料のBa安定同位体分析を進めるため、各種高純度試薬、テフロン製容器類、イオン交換樹脂、フィラメント材料などの実験消耗品の購入を行う。日本地球化学会およびAGUの参加を検討している。また、論文発表に伴う、英文校正料、論文投稿料、およびオープンアクセスに関わる費用を見込んでいる。平成29年度も引き続き試料分析が必要であるため、研究支援パートタイマーの雇用を延長する。
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Research Products
(2 results)