2015 Fiscal Year Research-status Report
強レーザー誘起の分極相互作用下での分子ダイナミクスの最適化とX線回折像の解析
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15K05373
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大槻 幸義 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40203848)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 最適制御 / レーザーパルス / 分極相互作用 / 分子整列 / X線回折 / 非断熱遷移 / 量子演算 |
Outline of Annual Research Achievements |
①我々は,レーザー・THzパルス同時最適化から,実用的なパルス強度で効果的に配向制御できることを示した[Phys. Rev. A90, 013415 (2014)]。しかし,THzパルスの整形技術は開発途上であり,THzパルスが最適ではない場合の制御法を明らかにした。まず,多数の極値の中から正しい最適解を見出すアルゴリズムを開発し,レーザーパルスの整形によりTHzパルス形状に依らず同程度の配向制御が可能であることを示した。また,THzパルスごとに制御しやすい配向方向が存在し,それを選択することでレーザーパルス形状を大幅に簡単化できることを示した。 ②強静電場下において分極相互作用は束縛回転状態を生成する。これを光格子に捕捉すれば,10000個以上の量子ビットに演算が可能である。縮約法を導入してスケーラブルなパルス設計法を開発し,更に,パルス振動成分に分割することでミリ秒の量子最適化シミュレーションを可能にした。従来1μ秒程度と予想されていた1量子ビット演算に対してはやや複雑なパルスが必要であり, 1ミリ秒程度(分子間相互作用の逆数)であれば比較的単純なパルスで高精度の1・2量子ビット演算が実行できることを示した。 ③生体分子に対する実時間X線回折の実現に向けて,ポルフィリン分子を具体例にX線回折のシミュレーション・コードを開発した。その結果,実用化されている超流動液体ヘリウムドロップレットを用いれば,明確な回折像が得られることを明らかにした。 ④非断熱領域の直接制御によるIBrの光解離チャンネル選択に関しては,波束の境界反射を取り除いた最適シミュレーションコードを開発した。初期電子励起状態にフランク・コンドン波束を用いた計算では,パルス照射時刻の違いにより分極誘起のポテンシャルを波束運動と同・逆方向に動かすことができ,効果的に非断熱を制御できることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績報告に記したように本年度目標はほぼ達成されている。実際,分極相互作用を用いるIBr光解離チャネル選択制御および対称コマ分子の整列制御に関して,シミュレーションコードの開発に成功している。,最適化問題は逆問題であるために,前者の場合,数値境界での波束の反射をいわゆる吸収端で除くだけでは不十分である。この問題に対しては我々が開発した最適化アルゴリズムを実装することで解決した。また,種々の数値条件で準備評価を行い,数値精度などの基本データの収集・解析も完了している。この成果はこの5月に開催される理論化学討論会で,ポスターとして報告する予定である。 一方,整列制御した対称コマ分子からのX線回折パターンのシミュレーションコードも開発済みである。このコードでは,整列制御された分子の振動自由度も陽に取り入れて作られている。更に,X線回折パターンは原子分布のフーリエ積分であることから,逆変換を通して実空間での原子運動(ただし,整列回転軸まわりでは回転平均される)を求めるプログラムも合わせて開発した。以上の成果はこの5月に開催される理論化学討論会で,口頭発表として報告する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿っておおむね順調に進展しているので,今までの成果に基づき課題を解決する。 ①非断熱領域の直接制御に関しては,IBrの光解離の分岐比の最適化をまとめて学会誌への投稿を計画している。現在,電子基底状態からの励起を陽に加えていないのは,最適化においては共鳴遷移と(分極相互作用を誘起する)非共鳴遷移が複雑に結びついた機構が導かれるためである。これはもちろん両者(複数光源)を組み合わせたハイブリッド制御法の有効性を示しているのであるが,制御機構の観点からは解析を難しくする。そこで両者を切り離し,研究目的の非断熱領域の直接制御に焦点を合わせて研究を進めている。まずはこの方向で解析を進め,より説得力のあるデータ・解析に基づき,「制御が分極誘起のポテンシャルと波束の間の相対運動で決まる」という我々の解釈をまとめる。その後,電子基底・励起状態間の共鳴遷移も取り入れ,ハイブリッド制御法の機構を解析する。 ②整列・配向パルスにより運動が初期化された分子からの時間分解X線回折パターン変化に関しては,分子モデルをより一般化する。すなわち,対称コマを非対称コマ分子へ,剛体から内部振動を含めた分子への拡張である。後者に関して,多自由度系では計算量の増加の問題が生じる。そこで振動と回転動関数の積として全波動関数を近似する。このままでは最適化問題に新たな非線形項が加るため,現在,単調収束が保証されたシミュレーションアルゴリズムは知られていない。我々は,両者を断熱的に分離することで非常に良い近似で単調収束が成り立つ数値解法を着想しコード開発に着手している。まず,正確に解ける2原子分子に適用し計算量・収束性・数値精度などを調べた後に,ポルフィリンなどの複雑な分子へ適用する。同時に,偏光条件も最適化し,3次元分子整列のシミュレーションも開始する予定である。
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Research Products
(12 results)