2016 Fiscal Year Research-status Report
強レーザー誘起の分極相互作用下での分子ダイナミクスの最適化とX線回折像の解析
Project/Area Number |
15K05373
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大槻 幸義 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40203848)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 最適制御 / レーザーパルス / 分極相互作用 / 分子整列 / X線回折 / 非断熱遷移 / 同位体分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
①生体分子に対する実時間X線イメージの実現に向けて,対称コマ分子で近似したポルフィリン分子の1次元整列制御を偏光条件も含めて最適化した。直線・円偏光したレーザーパルスも比較検討した結果,単一パルスでは制御に不利であった円偏光の方が,最適化後には直線偏光よりも高い整列度合いを実現する。偏長コマ分子においては逆の効果がみられる。現在,成果取りまとめに向けて,データを詳細に比較検討している。 ②非対称コマ分子の3次元整列制御の最適化コードを開発した。制御の有効性の評価によく用いられている二酸化硫黄分子に適用し,互いに直交する2つの直線偏光パルス列が最適解であることを見出した。偏光条件を楕円偏光に固定した場合,最適パルスは複雑なパルス列となるだけでなく,整列度合いの増加も限定的である。 ③窒素・酸素などの安定同位体は分子標識などとして医療などでも利用されている。これらは2原子分子で存在するため,同位体選択的な整列制御は分離に向けた重要なステップになると期待できる。高強度の単一パルスと比較すると,最適な低強度のパルス列(イオン化や解離のダメージを避けられる)により100 ps以下の短時間で整列度合いを数10%高められることを明らかにし,成果を学術誌に報告した。パルス分割法を新たに提案しパルス間の役割を解析した。 ④IBrの選択的な光解離を目的に,固定したポンプパルスの下で,非断熱遷移を制御する非共鳴パルスを最適化した。吸収ピークよりも長波長のポンプパルスを用いると,非共鳴パルスは2つのパルスからなる。最初のパルスはポンプパルスと同時に現れ,シュタルクシフトにより励起確率を高める。2つ目のパルスはポテンシャルの擬交差点の位置と勾配を変化させる。例えば目的生成物がBrの場合,波束の動きに追従するようにパルスが照射され,非断熱遷移が促進される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績報告に記したように本年度目標はほぼ達成されている。分極相互作用を用いる対称コマ分子の整列制御に関しては,結果が出そろっており現在,学術誌への報告にまとめているところである。また,本課題に関連する主要な学会においても成果を報告している。 非対称コマ分子の3次元整列制御のシミュレーションを行い,二酸化硫黄分子を例に回転温度0 Kにおける結果はすでに得ている。現在,有限温度に拡張しているところである。分子を3次元整列制御することで,分子の様々な方向からのX線回折像がシミュレーションできるようになっている。これをフーリエ逆変換することで実時間イメージを3次元的に求めることもできている。 非断熱遷移の動的シュタルク制御に関しては,IBrを例にポンプパルスの波長効果や非断熱カップリングの大きさなどを変化させた系統な解析も終了している。IBrの選択的な光解離の最適シュタルク制御として論文にまとめている段階である。また回転だけではなく解離ダイナミクスのX線回折像のシミュレーションを進めている。 以上に加え,研究の新たな展開として,複数の化学種が混在する系へも分子整列制御を拡張した。具体的には,窒素15や酸素18を含む2原子分子を,同位体選択的に分子整列させることを目指し,最適パルスを設計した。低強度なパルス列でより高い選択性が実現できることを明らかにし,成果を学術誌に報告した。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿っておおむね順調に進展している。分極相互作用を用いる対称コマ分子の整列制御およびIBrの選択的な光解離の制御に関してはできるだけ早期に成果をまとめ学術誌に報告する予定である。 ①現在,非対称コマ分子の3次元整列として二酸化硫黄分子を例にシミュレーションのノウハウを蓄積しつつ,制御機構の解析を進めている。まず,これを有限温度に拡張することが大きな目標である。その後,本課題の研究目的に従い,アラニン分子を例にキラル選択的な3次元配向制御に研究をすすめる。配向制御には空間的に非対称な相互作用が必要であり,THzパルスによる双極子相互作用と分極相互作用を組み合わせる。 ②非断熱領域の直接制御に関しては,多次元への拡張を目指す。まず近似せずに波束の時間発展がシミュレーションできる2次元系を扱う。これは多次元系に対する最小モデルでもあり,光誘起ポテンシャルの多次元効果に関する知見が得られるはずである。一方,計算量の増加伴い,この手法を3次元以上へ拡張することは難しい。新たな展開として,核波束を(多配置)時間依存ハートリー積で表す必要がある。しかし,従来の最適化アルゴリズムでは近似の導入により単調収束が保たれなくなる。単調収束アルゴリズムに近い信頼性でシミュレーションできる,多次元系でも実用的なアルゴリズムが必要である。既に近似が単調収束を壊す原因を突き止めており,その影響を最小化することで単調収束に近いアルゴリズムを開発できると考えている。 ③新たな展開として,分極相互作用が分子ダイナミクスに及ぼす影響をX線回折像以外に,分光的に捉える方法も研究する予定である。X線イメージングは直観的な描像を示す利点がある。一方,ポンプ・プローブ分光法を使えば,波動関数の量子干渉効果を高精度に観測することが期待できる。
|