2016 Fiscal Year Research-status Report
全原子を量子論で取り扱う凝縮系化学反応動力学理論の開発
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15K05375
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高柳 敏幸 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90354894)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 反応動力学 / 量子ダイナミクス / 量子効果 / リングポリマー分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度に開始したヘリウムクラスター中で銀原子の光励起ダイナミクスの応用計算に重点をおいて研究を行った。我々は、経路積分理論を基礎としたリングポリマー分子動力学(Ring-Polymer Molecular Dynamics=RPMD)法と波束理論を組み合わせることで、すべての原子を量子的に扱う方法を提案し、コード開発を行った。具体的には、Ag(5p 2PJ)の電子励起状態をDiatomic-In-Molecule法に基づいた3状態のハミルトニアンで記述し、状態ベクトルを時間発展させる。一方、ヘリウム原子の運動についてはRPMD法を用いた擬似粒子(ビーズ)によって量子性を記述する。500個のHe原子からなるクラスター中のAg原子の光励起反応(5p 2PJ ←5s 2S1/2)の実時間シミュレーションを行った結果、励起したAgは、初めはクラスターの中心で運動していたが、徐々に中心から外側に向かって移動していき、約100psほどでクラスターの表面に到達した。その後、ヘリウムの蒸発を伴ってAgはヘリウムクラスターから飛び出した。こうした現象は実験においても観測されており、良い一致を得ることができた。研究成果を論文としてまとめ、物理化学分野のトップジャーナルであるPCCP(Physical Chemistry Chemical Physics)誌に投稿し、受理された(平成29年度掲載予定)。 また、本年度は(CO2)2-(H2O)n (n = 1, 2)クラスターの電子移動反応について、GRRM法を用いた詳細な電子状態計算を行った。この系では、水分子の溶媒和構造の変化によって余剰電子が分子間を移動する興味深いで例であり、将来動力学計算の対象となり得るものである。研究成果は、計算化学分野の専門誌Computational and Theoretical Chemistry誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、プログラム開発およびヘリウムクラスター中の銀原子光励起ダイナミクスへの応用計算を行った。実際の計算では、収束性を確かめる過程の多くの時間を費やすことになったが、概ね予定通りの研究活動を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、同じくヘリウムクラスターのイオン化ダイナミクス、および水素クラスターのイオン化ダイナミクスについて詳細な計算を行う予定である。また、本年度は研究課題の最終年度になるため、研究総括についても検討を行う。
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Research Products
(8 results)