2015 Fiscal Year Research-status Report
バイオルミネッセンスの色決定機構における化学反応ダイナミックス
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15K05379
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋山 みやび 東京大学, 物性研究所, 研究員 (90399311)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ホタル生物発光 / 発光体 / オキシルシフェリン / 振電相互作用 / 吸収スペクトル / 蛍光スペクトル / フランクコンドン因子 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
ホタル生物発光は、あらわに外部からエネルギーが供給されることなく、化学反応により発光する興味深い現象である。この反応は「ルシフェリンールシフェラーゼ反応」と呼ばれ、ルシフェラーゼタンパク質酵素中でアデノシン三リン酸・ルシフェリン・酸素・金属イオンからオキシルシフェリンが生成・発光する反応である。ルシフェリンールシフェラーゼ反応ダイナミックスを調べるためには、その基礎となるデータとして、反応物であるルシフェリンと発光体であるオキシルシフェリンの構造を知る必要がある。これまでの理論研究から、ルシフェリンやオキシルシフェリンのそれぞれの分子構造およびその電子状態についての理論研究が行われた。しかしこれまでオキシルシフェリンの実験データが少なかったため、計算手法の妥当性を検討することができなかった。平成27年にオキシルシフェリンの実験スペクトルが報告されたので、本年度は、計算手法の妥当性を検討するとともに振電相互作用を調べた。オキシルシフェリンの基底状態と励起状態の間の振動のフランクーコンドン因子を見積もることにより、水溶液中におけるケト型とエノール型のオキシルシフェリンおよびその共役塩基の吸収・蛍光スペクトルにおけるスペクトルの形状・幅・それらの起源を解明することができた。本研究で用いた方法では、ケト型アニオンの場合のスペクトル幅のみ、実験スペクトルと一致しなかった。その原因は、ケト型アニオンの場合は他の化学種に比べて特異な溶媒効果があり、溶媒環境の記述が従来の連続誘電体モデルでは不十分であるためと考えられる。そこで、連続誘電体モデルを用いずに、水分子をあらわに含むオキシルシフェリンの分子動力学計算を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
オキシルシフェリンについて振電相互作用を明らかにすることができた。これらの結果についてまとめて、投稿論文としてPhotochemistry and Photobiologyで発表することができた。さらに、招待講演4件を含む学会発表10件を行った。ハワイにおける環太平洋国際化学会議2015(Pacifichem2015)で、米国と中国の研究者とともに、オーガナイザーの一人として生物発光のシンポジウム Luciferin/Luciferase Engineering を開催し、国際会議で研究成果の発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
水分子をあらわに含むケト型とエノール型のオキシルシフェリンの分子動力学計算を行い、得られる構造データを用いて吸収スペクトルを計算すれば、ケト型オキシルシフェリンに特異な溶媒効果が明らかになると考えられる。同時にこれらの結果は、今後用いる計算手法の決定に有用な情報となる。そこで、ケト型だけでなくエノール型のオキシルシフェリンの水分子をあらわに含む分子動力学計算を行う。連続誘電体モデルを用いた結果および実験スペクトルと比較することにより、溶媒効果を調べる。また、この分子動力学計算による構造を、活性中心のモデル系に必要な溶媒分子とオキシルシフェリンの空間的な配置に用いる。次に、タンパク質の構造情報を得るため、ゲンジボタルルシフェラーゼと水溶媒の古典分子動力学計算に着手する。まず、結晶構造を参考にして、ゲンジボタルルシフェラーゼタンパク質の入力データを作成する。日本蛋白質データバンクで公開されているゲンジボタルルシフェラーゼの中間体のX線結晶構造は、反応が進まないようにルシフェリンとアデニル酸中間体の類似体とゲンジボタルルシフェラーゼ変異体を組み合わせた構造になっている。そこで、この構造の変異体部分のアミノ酸殘基を実際のアミノ酸殘基に置き換え、実際のゲンジボタルルシフェラーゼの構造を作成する。分子動力学計算および吸収スペクトル計算には複数の構造計算を行う必要があり、購入したワークステーションでは計算に時間がかかりすぎる可能性がある。そのような場合は、並列計算可能な名大情報基盤センターを用いる。
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Causes of Carryover |
環太平洋国際化学会議2015事務局より、参加費の免除を受けることができる対象者に選ばれたため、参加費の支払いが不要になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの研究成果を発表・情報収集(19th International Symposium on Bioluminescence and Chemiluminescence 2016, 32nd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics,第10回分子科学討論会、第54回日本生物物理学会, 日本物理学会2016年秋季大会,第72回年次大会,日本化学会第97春季年会)にて発表する。また情報収集や研究打ち合わせを行うため、 584,000円を出張費に使う。研究成果を投稿論文として発表するため、200,000円を論文投稿費用に使う。計算結果の解析のため、プログラムソフト(70,000円)を購入する。名古屋大学情報基盤センター利用に100,000円を使う。
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] イクオリン生物発光の量子収率測定2015
Author(s)
挾間優治, 東暉舜, 倉田麻貴, 樋山みやび, 吉田正裕, 久保田英博, 井上敏, 秋山英文
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学 (大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-17
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