2015 Fiscal Year Research-status Report
機能性自己組織化単分子膜の電子状態と光励起ダイナミクス
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15K05389
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 浩之 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80300862)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宗像 利明 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20150873)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 表面界面物性 / 電子状態 / 分子デバイス / 自己組織化単分子膜 / 光電子分光 / 表面振動分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
単分子(または少数の分子)で機能する電子デバイス(分子デバイス)を実現するために、電極と官能基間の相互作用を定量的に把握することは重要である。当研究課題では、構造的にデザインされた機能性自己組織化単分子膜(SAM)を用いて、官能基の電子状態が金属基板界面で「どれ程の相互作用を被るか」、「如何に制御することが可能か」について明らかにすることを目的とする。このために、SAM中の分子構造の同定とともに電子状態を直接観測することで、金属-分子膜界面における各種相互作用の物理化学的な解明を進めている。特に当課題では、従来の光電子分光法による占有電子準位の観測にくわえ、時間分解2光子光電子(TR-2PPE)分光法を用いて非占有準位に励起された電子状態と励起後のダイナミクスの定量観測を行い、その解明にあたってきた。 試料には、Au基板上のオリゴチオフェン終端アルカンチオールSAM(xTCnS-SAM; ここで、xはオリゴマーにおけるチオフェン数、nはアルキル鎖における炭素原子の数(鎖長に相当))を用いた。xTCnS-SAMは、高密度で高配向な膜を作ることが報告されている。オリゴチオフェン薄膜は、良導電性の有機半導体で、かつ、高い光ルミネセンス特性も有する物質であるため、これを末端に持つxTCnS-SAMは、様々な分デバイスの機能を検討するモデルとして最適な系と考えられる。 平成27年度は、研究計画に沿って、Au基板上の4TCnS-SAMにおける4T部位の光励起寿命τのn依存性について、実験と解析を進めた。特に、SAM内の分子構造と励起電子ダイナミクスの関係を解明するために、nの偶奇性について、TR-2PPE測定から得られたτの定量的な変化とSAM内の分子構造の相関を調べた。結果として、τのn偶奇性は、官能基である4T部位の電子状態の変化ではなく、SAMを形成したときのアルキル鎖構造のn偶奇性によって、Au基板-4T間の距離が僅かに異なるために生じていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先に研究を進めていた4TCnS-SAMにおける光励起電子の消失過程の解明では、その4T部位の励起寿命τに顕著なn依存性(奇数のn=3,5,7,9,13において、それぞれτ=0.2, 0.5, 1.2, 1.8, 3.9 ps)が観測された。要因として、Au基板への「量子トンネル機構」、または、光励起で生じた正孔との再結合の際に起こるAu基板への「励起エネルギー移動機構」のいずれかであることが示唆された。そこで、τの変化をアルキル鎖長の違いによるAu基板-4T間距離の関数に置き換えて、両モデルと比較検討したところ、後者の「励起エネルギー移動機構」がその失活過程の原因であることが明らかになった。この成果は原著論文として受理され、物理化学の学術誌に掲載された。 一方、励起寿命τにおけるn偶奇性については、新たにアルキル鎖の炭素数nが偶数(偶数鎖)であるときの測定結果(n=6,8において、それぞれτ=0.5, 1.2 ps)をくわえ、それぞれがn-1(奇数鎖)のτに近い値であることを見出した。この偶数鎖における4T部位の電子状態は、奇数鎖と極めて似ていることから、両者の脱励起機構は同一であり、分子構造の違いによるτのn偶奇性が現れているものと考えられた。そこで、赤外反射吸収分光法(IRAS)を用いて、SAM中の分子配向を調べたところ、4T部位には僅かな偶奇性しか観られなかったものの、アルキル鎖には顕著な偶奇性が確認された。これは、SAM分子のAu-S-C結合部位構造と末端の4T部位の配向の不整合が、偶数鎖の時に大きく、これを緩和するためにアルキル鎖が歪んだものと考えられた。この歪みによって、アルキル鎖層の膜厚は薄くなるため、「励起エネルギー移動機構」おける励起寿命τの減少が生じたものと結論された。以上の結果から、金属-分子膜界面における光励起状態は分子の電子状態のみならず分子の構造にも強く影響を受けることを示すことができた。この研究成果は、既に論文にまとめ学術誌に投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、研究計画どおりSAM中の官能基の電子準位の制御について研究を進める。ここでは、2TC5S-SAMの末端に更にフッ化アルキル基を付加することで、2T部位の電子準位のレベル制御が可能であるかを検討する。オリゴチオフェンのα位の水素をフッ化アルキル基で置換すると、分子内の電子準位が高束縛エネルギー側にシフトすることが報告されている。一方、アルカンチオールSAMにフッ化アルキル基を導入しても、SAMの分子配列を大きく変えないことも知られている。そこで、xTCnS-SAMの末端にフッ化アルキル基を付加することで、SAM内の分子配向を乱すことなく、2T部位の電子レベルが変調できるかを検討する。これにはまず、CF3-(CF2)5-2T-(CH2)5-SHを新たに化学合成する必要がある。化学合成は、学内の共同研究の枠組みの中で遂行する。 また、これまで各種光電子分光を用いて分子内準位を観測してきたが、SAM膜の平均化した情報であったので、今後の研究の発展を鑑みて、既存の走査トンネル顕微鏡を用いた2次元マッピングの導入も検討する。当課題では、発展として異種官能基を表面垂直方向に積み上げた高機能SAMを準備し、官能基間の電子移動(電荷分離)を定量的に捉える計画がある。しかしながら、この化学合成の労力は少なくない。そこで、比較的シンプルな構造の異種SAM分子を混合して製膜した系で、異種官能基間の励起キャリアの授受が観測できないかを検討する。これには、面内方向の分解能を持った走査トンネル顕微鏡の導入が有用である。もし、実現すれば、これまでの研究手法にくわえ、励起キャリアの2次元的な広がりについても議論できるものと期待される。 くわえて、高機能分子の化学合成が困難な場合に対応するため、比較的フレキシブルな水素結合を利用した機能性分子の積層についても試みて、不測の事態に対応できるよう研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度の初期にTR-2PPE装置の修繕・改良が必要になり、計画に無かった費用(405千円)を支出した。また、採択で予算の減額(当該年度 -600千円)もあり、当初予定していた備品(装置の老朽化に伴う代替用の真空ポンプ、1,700千円)の購入を見送った。主にこれらの差額により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、計画に沿って研究を行う。よって、試薬や各種消耗品の購入、学会参加の登録費や旅費が主な支出予定となる。また、繰越額分は、既存装置の消耗部品の劣化が進んでいることを考慮し、状況に応じて修繕費にあてる。
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Research Products
(5 results)