2015 Fiscal Year Research-status Report
量子化学計算に基づく生体高分子の超分解能構造解析技術の開発と創薬への応用
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15K05397
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
福澤 薫 (秋葉薫) 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (50718244)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生体高分子 / 構造解析 / 量子化学計算 / 電子密度 / 構造最適化 / 創薬 / 温度因子 / 熱ゆらぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
構造生物学の主要な基盤技術であるX線結晶構造解析では、タンパク質-リガンド複合体構造を解く際に、創薬等で重要なリガンド周辺の精密構造を決定することが依然として困難である。本研究では、フラグメント分子軌道(FMO)法に基づく全電子計算を行い、計算から得られる電子密度や安定構造の情報を利用することによって、X線結晶構造解析に不足している情報を補い、構造解析の分解能を実質的に挙げるための「超分解能解析」技術を開発している。 1年目となる平成27年度は、まず構造と電子密度が公開されているタンパク質-リガンド複合体構造に対するFMO計算を行い、リガンドと周囲のアミノ酸残基との相互作用を明らかにするとともに電子密度を算出し、数値比較を行った。すると、共結晶構造の場所によって原子上にある電子密度の濃さが異なり、直接比較が困難であることが明らかとなった。特に活性領域であるリガンド周辺でこの現象が見られた。理由として、X線結晶構造解析では熱ゆらぎの平均値を表しているのに対して、FMO計算では静的な構造に対する精密な電子分布が得られるためであると考えられる。そこで、FMO計算結果の電子密度に、X線結晶構造解析によって各原子に与えられている熱的ゆらぎ指標(温度因子)を取り入れてFMO電子密度を再構築した後に数値比較することにした。平成27年度末の時点では、熱的ゆらぎの取り込みのための手法開発を行い、温度因子を取り入れたFMO電子密度データを構築することができた。未だ数値比較には至っていないが、今後、実験値との比較検証によって改良していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
提案時の研究計画によると、初年度は高分解能のX線結晶構造解析による実験データと静的なFMO電子密度計算結果を数値比較し、リガンドの配座やプロトン化状態を含めて電子密度が最も一致するような構造を決定することを計画していた。それによって超分解能解析の基本プロトコルを開発する予定であったが、実際に複数のデータを扱うにつれ、FMO計算において熱的ゆらぎを考慮していないことが実験値との比較において重大な解離を引き起こしていることが明らかとなった。そこで熱的ゆらぎを考慮したFMO電子密度を新たに構築する手法の開発を先に行うこととした。 FMO電子密度計算結果では、タンパク質-リガンド複合体がつくる立体構造のXYZ座標上に、3次元のグリッドデータとして、電子密度分布を示す数値が与えられている。このグリッドデータのそれぞれに周辺の原子がもつ熱的ゆらぎ(温度因子)をマッピングし、ゆらぎの大きさに応じて電子密度分布を正規分布で表すことによって、熱的ゆらぎを考慮した電子密度分布を得ることができる。平成27年度末の時点で、電子密度分布の再構築プログラムのプロトタイプの作成と、熱的ゆらぎを考慮した電子密度分布を得ることができた。今後はX線結晶構造解析の電子密度分布との数値比較による検証を進め、改良していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、平成27年度に開発した、熱的ゆらぎを考慮したFMO電子密度分布と、X線結晶構造解析による電子密度分布の数値比較を開始し、プロトタイププログラムに対するパラメタの最適化を行う。その後、リガンドの配座やリガンド周辺アミノ酸残基のプロトン化状態を考慮した複数の立体構造(候補構造)のFMO計算を行い、FMOおよびX線双方の電子密度が最も一致するような構造を決定する。この際、FMO計算によるリガンド周辺の構造最適化も実施し、精密構造の決定に活用する。双方の電子密度の一致度に対する信頼度因子(R因子)を導入し、定義式の仮定と検証を繰り返す。 検証に用いるターゲットタンパク質には、福澤が代表を務める産学官連携の「FMO創薬コンソーシアム」で扱うキナーゼ、プロテアーゼ、核内受容体、タンパク質-タンパク質相互作用等のターゲット群からも選択する。コンソーシアムの活動はタンパク質-リガンド相互作用を主要な目的にしており、本研究で開発する超分解能構造との連携を図る。 申請当初の創薬ターゲットはWNK1キナーゼであったが、申請後に立ち上げたFMO創薬コンソーシアムとの連携を強化した方が相互の発展が期待できるため、創薬ターゲットに関しても、平成28年度の複数ターゲットへの取り組みを踏まえて見直すものとする。本開発への製薬企業からの要望としては、現在のところ、リガンド周辺の精密構造の決定、水分子の有無の判定と相互作用、等に対するものが多い。
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Causes of Carryover |
交付申請時に購入を予定していたワークステーション(定価120万円)が値引きにより約75万円になったため、40万円程度の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の計画変更に伴って、次年度以降に、熱揺らぎを考慮した電子密度の改良が必要になるため、可視化解析プログラムの開発等に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)