2016 Fiscal Year Research-status Report
レドックス活性オリゴピロールのキロプティカル特性と不斉触媒機能
Project/Area Number |
15K05424
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
瀬恒 潤一郎 神戸大学, 理学研究科, 名誉教授 (10117997)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | らせん不斉 / ヘリケート / オリゴピロール / 円偏光 / 酸化還元 / キロプティカル特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
長いπ電子共役系を有する化合物は可視部から近赤外に至る長波長領域にHOMO-LUMO遷移に基づく強い光吸収帯を有するという点で特徴ある光機能物質としての展開が可能である。とりわけ、このようなπ電子共役系に一方向のらせんを誘起することができれば、強いキロプティカル特性が期待される。 本研究では可視部長波長領域で作動するキロプティカル分子スイッチの開発を見据えて、オリゴピロールヘリケートの構造制御に関する知見を得て、そのスペクトル特性を明らかにする計画である。平成28年度は金属の種類とオリゴピロール部位の置換基がその立体構造とスペクトル特性に対してどのような効果を及ぼすのかという点について検討を行った。これまでの研究によりヘキサピロール-α,ω-ジイミンの複核パラジウム錯体ヘリケートは3種類のコンフォメーションをとりうるが、その立体制御はイミン部位のN-置換基により可能であり、それぞれのらせん方向はイミン部位の不斉中心によって制御できることを示してきた。平成28年度の研究により、新たに合成した複核ニッケル錯体ヘリケートがパラジウムの場合に見られた典型的ならせん(クローズ型)とは異なるオープン型のコンフォメーションをとることを見出し、そのスペクトル特性を明らかにした。また、ヘキサピロール-α,ω-ジイミンのピロールβ位にアルキル置換基を導入すると、らせん反転の速度と熱力学が大きく変化することも明らかになった。この結果の一部は中国の研究者との国際共同研究により得たものであり、日本化学会第97春季年会にて連名で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レドックス活性を有するN-メチルピリジニウム環を組み込んだオリゴピロール鎖のヘリケートに関しては、平成27年度の研究により、らせん不斉を極めて高いジアステレオ選択性で一方に偏らせることができると同時に、2電子還元再酸化サイクルと溶媒依存の2つの独立した方法を用いて大きなキロプティカル特性変化が起こることを見出した。この研究成果については平成28年度に投稿に必要なデータ収集と論文作成がほぼ終了し、最終のチェックを行っている。 一方、ヘキサピロール鎖のヘリケートに関しては、従来の研究により、末端のイミン部位に(R)-1-シクロヘキシルエチルアミンに由来する不斉中心を有する誘導体について85%のジアステレオ選択性でのらせん方向制御ができていた。平成28年度ではピロールのβ位に新たにメチル基を導入することにより、多くの誘導体でジアステレオ選択性が向上し、100%のらせん方向制御が可能となった。また、複核ニッケル錯体のヘリケートではパラジウムの場合に見られた典型的ならせん(クローズ型)とは異なるコンフォメーション(オープン型)が優先することを明らかにした。特に、(S)-1-フェニルエチルアミンに由来する不斉中心を有する誘導体は溶液中で単一のオープン型(M,M,P)コンフォメーションをとることを各種スペクトルと計算化学を駆使して明らかにした。複核ニッケル錯体は複核パラジウム錯体に比べて1.5倍から2倍の分子吸光係数を有しているために、典型的ならせん構造ではなくても強いキロプティカル特性を示すことがわかった。これら複核錯体の1電子酸化還元に伴うUV-visおよびCDスペクトルの可逆的変化についても明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトでは酸化還元部位を組み込んだオリゴピロールの立体制御とキロプティカル特性の開発を主要なテーマとしており、N-メチルピリジニウム環を導入した複核ニッケルヘリケートに関する研究論文を早急に投稿する。また、これまでに開発しているジメトキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンを組み込んだオリゴピロールヘリケートの誘導体についても追加のデータを収集し、論文作成を行う。 平成28年度に実施した複核ニッケル錯体ヘリケートのらせん不斉とキロプティカル特性に関する研究成果、および、ピロールβ位の置換基効果に関する結果については早期に論文作成を完了し、学術雑誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
主として、初年度に計上していた円二色性分散計のオーバーホールのための費用が思いの外、少額で済んだことにより繰り越した金額が平成28年度もそのまま繰り越しされることになった。また、平成28年度は本研究の物質合成の鍵化合物である2,2’-ビピロールに関する総説(Chem. Rev. 2017, 117, 3044-3101)を執筆した。この論文はアメリカ化学会から依頼を受けたもので、単著で大部の論文作成に時間を要し、ベンチワークの時間が計画よりも限られたことも、次年度使用額が発生した理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年7月のキラリティーに関する国際会議(Chirality 2017)に参加し、本プロジェクトの研究成果を発表する予定である。当該学会の参加登録費、旅費として使用する。 また、平成28年度には中国の研究者との共同研究により、本プロジェクトを一層推進できることが分かった。実際に、平成29年3月の第97日本化学会春季年会で連名の研究発表を行ったが、今年度は研究打ち合わせのために、先方に赴き研究内容について議論する予定である。中国への旅費として使用する。 電子ジャーナルデータベース、単結晶解析構造データベース、各種の機器使用料として支出する。
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Research Products
(8 results)