2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K05425
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
林 聡子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00294306)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中西 和郎 和歌山大学, 学内共同利用施設等, 名誉教授 (80110807)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | NMR化学シフト / 77Se NMR / 125Te NMR / 量子化学計算 / 結合定数 / 相対論効果 / 分子軌道法 / 有機典型元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
核磁気共鳴法(NMR)法は、物質科学の研究において極めて重要な手段である。有機化合物を扱う実験室では、NMR測定は日常頻繁に行われ、化学シフトおよび結合定数を中心に解析され、化合物の同定や構造解析、反応追跡等に役立てている。NMRデータは、極めて重要な情報を多く含んでいるが、物質の機能評価や開発に用いられることは少ない。NMR化学シフトや結合定数が本質的に磁気的現象によるため、実験化学者にはその詳細な解釈が複雑かつ難解だからである。また高周期元素のNMRは、相対論効果のため解釈がさらに難解となる。本研究の目的は、難解な磁気的現象の詳細な解析は避け、物質の機能評価や開発に役立つ、より簡便で直感的にも理解し易いNMR解析法、具体的にはNMRデータの起源を各分子軌道に求めた方法の適応範囲を広げることである。 平成28年度は、「分子軌道法に基づくNMR化学シフト(δ値)および結合定数(J値)の解析法の発展(適応範囲拡大)と視覚化」に取り組んだ。δ値およびJ値に大きく寄与している軌道、あるいは軌道間遷移の機構を解析し、実測値と比較した。さらに相対論効果は原子番号の4乗に比例するので、相対論効果をきちんと加味して、計算値を算出する方法をADF2016プログラム(Slater-typeの原子軌道)を用いて吟味した。またより理解し易いような視覚化の方法の開発に取り組んだ。 文献値に加え実測値を得るために、特異な構造を有する有機典型元素化合物の合成に取り組んだ。例えばアリール基による配向効果の機構を確立するためには、検討する目的化合物が、アリール基に対して全て平面構造や直交構造である必要がある。しかしこのような系の報告は、2006年に申請者らがセレン化合物で行った以外にはない。そこでテルル化合物の系について合成を行った。またフッ素およびリンの関与する超原子価化合物の合成も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、「分子軌道法に基づくNMR化学シフト(δ値)(昨年度の積み残し)と結合定数(J値)(当初予定通り)の解析法の発展(適応範囲拡大)と視覚化」に取り組んだ。δ値およびJ値に大きく寄与している軌道、あるいは軌道間遷移の機構を解析し、実測値と比較した。さらに相対論効果を加味して、計算値を算出する方法をADF2016プログラム(Slater-typeの原子軌道)を用いて吟味した。125Te核や他の重元素核でも実測のNMR化学シフト値や結合定数と良い一致を示すようになった。さらにより理解し易いように、視覚化の方法の開発に取り組んだが、操作性が容易なプログラムはまだまだ試作中である。 文献値に加え、特異な構造を有する有機典型元素化合物の系でもNMRの実測値を得るために化合物の合成に取り組んだ。平成28年度は、テルル化合物に加え、フッ素およびリン化合物を中心に合成を行い、概ね合成できた。しかし溶解性が悪かったり、収率が非常に低かったため、濃度や溶媒を統一して、信頼性の高い実測値を揃えて、精度の高いNMR解析法を行うには、もう少し時間を要する化合物群もある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに6Li, 11B, 13C, 17O, 19F, 29Si, 31P, 33S, 73Ge, 125Te, 119Snおよび207Pb核について、Gaussian09ソフトではBasis setの面で困難であることが分かったので、Slater関数を用いたADFソフトを用いて行った。ADFソフトを用いた場合は、相対論効果の加味も可能で、各分子軌道への分解も容易となることを、明らかにできたが、平成29年度は、さらなる解析法の発展(適応範囲拡大)と視覚化に取り組む。また視覚化については、操作性が容易なプログラムの試作に取り組む。
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Causes of Carryover |
国際学会(USA)での招待講演の依頼があったため、その旅費の一部として使用を計画していたが、急遽辞退せざるを得なくなったため次年度に繰り越した。しかし計算機のHDの破損による修理のため、その一部をうまく活用できた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画よりも論文別刷り代金や論文校正代金が必要となると見込まれるため、その費用に充てる。
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Research Products
(3 results)