2016 Fiscal Year Research-status Report
先端的時間分解分光で観測する金属錯体会合体の構造変形ダイナミクス
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15K05447
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
岩村 宗高 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 講師 (60372942)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超高速時間分解分光 / 発光分光 / 金原子間相互作用 / 会合体 / 発光チューニング / 金(I)錯体 / 振動分光 / 発光性錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
水溶液中におけるジシアノ金会合体が共存イオンによって発光量子収率が40倍近く増大することを見出し、この光物理過程の共存イオン依存性、溶媒依存性、温度依存性などの詳細を解析することにより、その緩和プロセスを明らかにした。すなわち、会合体の金ー金結合は、過大な静電的反発力を周りに存在する溶媒やカウンターカチオンなどの共存分子により緩和することで結合を保っており、この結合の解離過程が失活の律速である。テトラエチルアンモニウムなどのカチオンはジシアノ金間の結合を安定化させるため、これらのカチオン添加により発光寿命が著しく増大し、その結果高い発光量子収率を示す。 これらの共存イオンを加え、高い会合度を示すジシアノ金水溶液に対して時間分解X線吸収分光を行ったが、励起状態と基底状態の差スペクトルを得る事ができなかった。これは、溶液中に支配的に存在する単量体の信号に埋もれてしまうからであると考えられる。今後、ジシアノ金の濃度が低い水溶液でも高収率での会合体の形成を促す共存分子を探索し、再度X線分光を試みる予定である。 上記の水溶液に対する超高速時間分解分光を行った。緩和過程に10-20psの、これまで観測されなかった時間領域の変化があることが明らかになった。通常金会合体の蛍光寿命は数百fsであるが、4級アミン塩が共存するとき20psまで伸びることが時間分解発光計測から明らかになった。このことは、金の会合度が増えると項間交差速度が遅くなることを示唆している。また、溶液には数種の会合体が共存することが示唆されていたが、過渡吸収分光において金ー金間の伸縮振動による信号のビートが観測され、これらの振動数から各会合種の吸収帯の位置を特定できた。ここから、複数種の会合体が混在する複雑系における分光プロセスの解析のための基礎を確立できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水溶液中におけるジシアノ金会合体の発光現象について、共存イオン依存性、溶媒依存性、温度依存性などの詳細を解析することにより、その緩和プロセスを明らかにした。緩和プロセスが粘度に依存すること、疎水性カチオンにより大きく寿命が増大することなどから、失活過程は会合体の解離過程が律速であることを見出した。テトラエチルアンモニウムなどの疎水性カチオンは、静電的相互作用に加えてジシアノ金の配位子と疎水的相互作用によりジシアノ金錯体同士を強くとどめるため、発光寿命が著しく長くなり、その結果高い発光量子収率を示すことを明らかにした。 上記の系の水溶液に対する超高速時間分解分光を行った。緩和過程にこれまで観測されなかった10-20psの時間領域の変化があることが明らかになった。時間分解発光分光から、通常数百fsであった蛍光寿命が、4級アミン塩が共存するとき20psまで伸びることが明らかになった。このことから、金の会合度が増えると、重原子効果が大きくなることからの予想とは逆に項間交差速度が遅くなることが分かった。また、溶液には数種の会合体が共存することが示唆されていたが、過渡吸収分光において金ー金間の伸縮振動による信号のビートが観測され、これらの振動数から各会合種の吸収帯の位置を特定できた。ここから、複数種の会合体が混在する複雑系における分光プロセスの解析のための基礎を確立できた。 テトラシアノ白金錯体の水溶液に対して、種々の共存カチオンを加え、その発光スペクトルの変化を観測した。その結果、4級アミンではジシアノ金錯体のときとは逆に発光強度が著しく減少し、カリウム、ルビジウム、セシウムイオンを加えたときに発光強度が著しく増大した。発光寿命に大きな変化はなかったので、発光性会合体の生成収率か、輻射速度が添加塩により増加していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
時間分解X線分光を試みたが、会合体の濃度に対する単量体の濃度が大きすぎて、励起会合体の信号を得る事ができなかった。これまでの研究で、4級アミンが特異的に会合体を安定化させることが明らかになった。そこで、アミン系カチオン性ポリマーや共存イオンを導入し、少ない濃度で高収率の会合体が形成させる。高い収率で金ー金結合が形成する系で、X線分光を行う。 金原子間相互作用による会合体の分光学的分離が成功したので、同様の解析を白金原子間、銀原子間で試みる。そのため会合体が効率よく形成する溶媒、濃度、共存分子などの条件を追い込み、得られた系に関して時間分解可視・紫外分光およびX線分光を試みる。 項間交差過程が会合度によって大きく異なることが見出された。そこで、項間交差過程の詳細を調べるため、固相系における低温分光を試みる。 白金、金、銀錯体の会合体発光に対する共存分子の効果を試す。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、新しい会合体を合成し、時間分解X線分光を行う予定であったが、初年度に行ったジシアノ金のX線分光における検出信号が、予想したよりはるかに小さかったので会合体形成の基礎検討に時間を割いた。この結果、当初試す予定であった白金などの貴金属錯体の合成を最終年度に回すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
白金、金などの貴金属錯体を多量に用いて会合分子の合成を行う。これらを用いて、基礎データとなる可視・紫外の時間分解分光実験を行う。
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Research Products
(5 results)