2016 Fiscal Year Research-status Report
金属ポルフィリン複合系における光誘起電荷分離系の構築と応用
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15K05451
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
稲毛 正彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (20176407)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 秀夫 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 准教授 (70242807)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 金属錯体化学 / 人工光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこれまでにポルフィリン錯体をはじめとする大環状配位子を含む金属錯体の関与する反応(配位子置換反応,光化学反応,電子移動反応など)を,各種分光法を用いて研究して,その反応機構の観点からその反応性を支配する要因を明らかにしてきた。そのような研究の中で,周辺部に2,2’-ビピリジンを結合させたポルフィリンの亜鉛錯体において,共存する遷移金属イオンによりポルフィリンの蛍光が消光されること,および,その原因がポルフィリンの励起状態において光誘起電子移動反応にあることを見いだした。今年度の目的のひとつは,これらの知見を基盤として2,2’-ビピリジンなどを結合させたポルフィリンの亜鉛錯体において,さまざまな架橋原子団を持つ二成分系ポルフィリン錯体を合成して,その光化学過程をレーザー分光法で調べることである。 用いた化合物は,周辺部の2,2’-ビピリジンと亜鉛(II)ポルフィリン錯体の間にさまざまな原子団(飽和アルキル鎖,不飽和アルキル鎖,フェニル基,ビフェニル基など)を有するポルフィリン複合系である。銅(II)イオン共存下でのこのようなポルフィリン錯体複合系の反応に関して,ナノ秒の時間分解能を有するレーザー分光装置を利用して,ポルフィリンの光励起により誘導される励起一重項状態,および,励起三重項状態での光誘起電子移動反応などの反応性を明らかにした。また,光誘起電子移動反応や逆電子移動反応の速度論的パラメーターと分子構造の相関に基づいて,長寿命の電荷分離状態の生成条件を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年には,平成27年度において明らかにした光誘起電荷分離状態の生成効率や逆電子移動速度速度の評価に基づく光励起電子移動反応の構造活性相関を基盤として,さらにポルフィリン複合系のダイナミックスの定量化を追求し,架橋原子団のπ共役や空間的広がりの観点から,光誘起電子移動反応の反応性を支配する要因,および,電荷分離状態の長寿命化の条件を明らかにすることを第一の目標とした。亜鉛(II)ポルフィリンにCu(II)-bpy錯体を結合させた分子系については,さまざまな架橋原子団(飽和アルキル鎖,不飽和アルキル鎖,フェニル基,ビフェニル基など)を有する化合物の合成に成功した。また,量子力学計算により,亜鉛ポルフィリン複合系の分子構造の構造について考察を行った。電荷分離状態の生成や逆電子移動反応の速度が反応中心の酸化還元特性や原子団の空間的配置を反映した分子構造に大きく依存していることを明らかにした。 このように,ポルフィリン錯体に電子移動反応を容易に引き起こす金属錯体を結合させた二成分系錯体を構築して,その光誘起電子移動反応の観測に成功したことは評価できるものと考えている。現在,Cu(II)-bpyユニット以外の錯体が結合したポルフィリン複合系についての光化学反応の検討を進めており,その成果を含めて,さまざまな二成分複合系の光誘起電子移動反応特性を考察する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,平成28年度までに明らかにした亜鉛ポルフィリン-銅(II)ビピリジン複合系(二成分系)の光誘起電子移動反応と逆電子移動反応の反応性に関して,それぞれの反応の量子収率,光誘起電子移動反応と逆電子移動反応における反応性などの構造活性相関の議論を精緻化し,光誘起電子移動反応の反応性を支配する要因,および,電荷分離状態の長寿命化の条件を明らかにしたい。また,これまで使用してきたレーザー分光装置より短い時間分解能を持つ装置を利用して,その速度が測定できなかった励起一重項状態における光誘起電子移動反応などの速度を測定して,光誘起反応の全貌を明らかにしたいと考えている。 さらに,二成分系を三成分系に拡張して,ポルフィリン錯体に電子供与性および電子受容性錯体(原子団)を結合させた複合系の構築も推進する。導入される原子団の位置に関しては,ポルフィリンの周辺部と亜鉛(II)の軸配位座の双方について検討を行う。この化合物では光誘起電子移動反応により,末端の錯体(原子団)に正電荷と負電荷が局在化した長寿命の電荷分離状態が達成できるものと期待される。最終的には,周辺部に結合させる錯体(原子団)として,水分子の還元触媒として機能することが期待されるPt(II)錯体などを導入した複合系を構築できれば,ポルフィリンの光励起を利用した水分子の完全分解反応のための複合系の創製が期待される。 研究体制については,平成28年度に引き続いて稲毛と高木が協力して化学合成,計測と反応の解析,反応性の評価を行う。
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