2015 Fiscal Year Research-status Report
低原子価金属オキソ錯体を鍵活性種とする酸素分子の活性化
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15K05462
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
倉橋 拓也 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (90353432)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酸素分子活性化 / マンガン / サレン錯体 / 電子移動 / 酸化還元電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、サレンマンガン(III)錯体とアルカリ水溶液との反応で引き起こされる酸化還元反応について詳しく検討を行った。この反応では、単核のマンガン(III)錯体から、2つの酸素原子で架橋された2核マンガン(IV)錯体が生成する。酸素同位体を用いる実験や、酸素分子を完全に排除したアルゴン雰囲気下での実験、添加物を加える実験等を実施して、詳細な反応解析を行った。その結果、この反応では、アルカリ水溶液に含まれる水酸化物イオンを電子源とする酸素分子の活性化が進行していることを明らかにした。以上の研究成果は、無機化学分野の一流国際誌であるInorganic Chemistryに投稿して受理された。 平成27年度は、この反応で酸素分子活性化に関与している鍵化学種について、さらに検討を進めた。-80℃の低温条件でサレンマンガン(III)錯体と有機溶媒に可溶な水酸化物イオン(Bu4NOH)を反応させたところ、可視領域に特徴的な吸収を示す化学種の生成が観測された。電子スピン共鳴測定により、この反応過程では酸化還元反応は生じておらず、マンガンイオンはマンガン(III)のままであることがわかった。本研究目的から大変注目すべきポイントとして、この化学種のマンガン(III)―マンガン(IV)の酸化還元電位が、元のマンガン(III)錯体と比較して、1.1 Vもの劇的な低下を示すことが明らかになった。酸素分子を還元できる電位ではないので酸素分子活性化の反応活性種そのものではないが、その前駆体である可能性が高いと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究において、水酸化物イオンを電子源として酸素分子を活性化することが原理的には可能であることを立証して、国際誌で広く研究コミュニティーに周知することができた。今後、当該研究領域でイニシャティブをとって研究を進めていく上では、非常に大きな第一歩だと考えている。 平成27年度に得られた研究成果の中で最も重要なポイントは、酸素分子の活性化に関与する化学種を捉えたことである。この化学種の構造―活性相関を詳しく調べることで、効果的に触媒構造の最適化を行うことが可能になると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
水酸化物イオンとの反応の結果、マンガン(III)―マンガン(IV)の酸化還元電位が大きく低下した化学種について詳細な検討を行う。X線結晶構造解析などで化学構造を明らかにするとともに、各種磁気測定を行って電子構造を明らかにする。電子構造に基づいて、酸化還元電位が大きく低下した要因を突き止める。 酸素分子活性化に関与していると思われる化学種を直接的に研究対象にすることで、温和な条件で酸素分子を活性化して、酸化反応活性を示す触媒の開発に取り組む。 現在もこの方向で研究を進めているが、当初の予想とは異なる実験結果も得られつつある。明確な結論が得られ次第、当初計画した酸素分子活性化機構を大幅に見直すことも視野に入れている。
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Causes of Carryover |
研究が当初予想とは異なる方向で大きく進展して、当初想定していなかった物品費が必要となった。その費用を捻出するため、平成27年度に予定していた高額の機器(極低温反応機)の導入を遅らせることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に購入を見合わせた極低温反応機は、平成27年度に生じた次年度使用額と平成28年度の助成金と合わせて導入する予定である。
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Research Products
(5 results)