2016 Fiscal Year Research-status Report
近赤外光でフォトクロミズムを示す蛍光性ジアリールエテンの開発
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15K05464
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
深港 豪 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (80380583)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フォトクロミズム / ジアリールエテン / 光反応 / 近赤外光 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、フォトクロミック分子を用いて様々な生命現象を光で制御・観測する試みが活発化しており、光反応に紫外光を必要としない、可視光や近赤外光で両光異性化反応を示すフォトクロミック分子の開発が切望されている。そのような背景に鑑みて、本研究では近赤外波長域の光で可逆的なフォトクロミック反応を示す蛍光性のジアリールエテン誘導体を創出するための基盤研究を行うことを目的とする。 その目的のために、フォトクロミック分子であるジアリールエテンユニットの一部に近赤外波長域に吸収バンドを有するπ共役蛍光色素を組み込んだ分子を設計・合成を試みた。具体的には、開環体の状態で近赤外領域に吸収を持つ程度にπ共役系が拡張した構造をとり、光閉環反応によりそのπ共役長が切断され、ジアリールエテンユニットとπ共役色素がそれぞれ単独の吸収特性を示す分子の設計を行った。その際、量子化学計算に基づき、(i)光閉環反応に対する各ユニットの組合せの最適化を行い、(ii)閉環体の吸収波長の長波長化による光開環反応に対する近赤外光応答性、および(iii)優れた蛍光特性の付与という三つ段階で目的とする分子開発に取り組んだ。これらのアプローチにより、目的とする近赤外波長域の光に応答する蛍光性ジアリールエテンに対する分子設計指針を確立することを目指し、様々な近赤外領域に吸収帯を有する蛍光色素をジアリールエテン骨格の一部に組み込んだ分子の合成を試みた結果、テリレンイミド系色素とシアニン系の色素を分子骨格に有するジアリールエテン誘導体の合成方法を明らかとした。また、得られた分子の近赤外光照射に伴う光反応特性、およびそれに伴う蛍光スイッチング特性の評価を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにジアリールエテンの様々な位置に共役系が拡張した蛍光色素を導入し、その光反応性を調べた結果、ジアリールエテンの反応点と呼ばれる炭素を介して共役系が繋がる形で蛍光色素を導入した場合にのみ、可逆的な光反応性が得られることを実験と理論計算の両面から明らかとしている(J. Am. Chem. Soc., 2014, 136, 17145-17154)。 近赤外光で可逆的なフォトクロミック反応を示す蛍光性ジアリールエテンを創出するために、これまでの知見に基づき最適なジアリールエテンユニットとπ共役蛍光色素との組合せに対する選定および合成方法の検討に取り組んだ。 種々の蛍光色素をジアリールエテンの骨格に組み込んだ分子の設計および合成を試みた結果、近赤外領域に吸収バンドを有するテリレンイミド系の色素とシアニン系の色素をジアリールエテン骨格の一部に組み込んだ分子の合成方法を確立することに成功した。また、それらの分子は開環体の状態で650-750 nm付近の近赤外領域に強い吸収バンドを有することが確認された。現在、その光反応性と蛍光特性について詳細な検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、これまでに得られている化合物の光反応性および蛍光特性の評価を進め、目的とする近赤外光に応答するジアリールエテン誘導体が得られているかを検討する。仮に、近赤外領域に吸収バンドを有するπ共役色素をジアリールエテンの反応点に導入するアプローチで目的とする分子が得られない場合、すでに強い軌道間相互作用を示すことが知られている可視域に吸収バンドを有するπ共役色素をジアリールエテンの二か所の反応点に導入し、π共役長が大きく拡張した分子の合成を試みる。可視域に吸収バンドを有するπ共役色素を両方の反応点に導入することで、開環体の状態で二つの蛍光色素の共役系がジアリールエテンユニットのヘキサトリエン部位を介して繋がり、LUMOにおける理想的な分子軌道を満たしつつ吸収バンドを近赤外波長域までシフトできる可能性がある。これらの研究で得られる結果を基に、近赤外光で可逆的なフォトクロミック反応を示す蛍光性ジアリールエテンに対する分子設計指針を明らかとする。
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Causes of Carryover |
本経費からの支出を予定していた旅費が、別のプロジェクト経費により支出できたため、次年度使用額が生じる結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
生じた次年度使用額については、消耗品の購入で使用する計画としている。
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Research Products
(18 results)