2016 Fiscal Year Research-status Report
光誘起プロトン・電子移動に基づく高度光応答性分子集合体の開発
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15K05475
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平尾 泰一 大阪大学, 理学研究科, 助教 (50506392)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光反応 / プロトン共役電子移動 / フォトクロミズム / 構造異性化 / 構造・機能材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来研究されてきたフォトクロミック分子は、光励起による電子移動や構造変化といった単一の化学変化を利用したものであった。本研究は光誘起電子移動、プロトン移動、構造異性化を複合的に組み合わせることによって、単一過程ではなし得なかった特異な化学変化の実現を目指している。そこで、電子・プロトンドナーとしてアンスラノールを、電子・プロトンアクセプターとしてアクリジンを直接結合した直交交差型分子を設計した。光励起状態からの電子移動反応と分子間プロトン移動反応を連鎖的に発現させることで、直交構造からねじれ構造、さらには折り畳み構造へと大きな分子構造の変化を高効率で達成することを期待している。これまでに標的化合物の合成、および最初のステップにあたる光誘起電子移動反応を実現している。そこで本年度は目的の光反応系の後半部分にあたる、ねじれ構造から折り畳み構造への異性化反応を採り上げ、このステップを他から独立させることで詳細に調査することとした。そのため今回注目したこの構造異性化反応ステップには上に述べたプロトン移動は直接関与しない。したがって解離性プロトンをメチル基に置換した誘導体を新たに合成して検討を行った。合成したメチル基置換体はビアントロンの類縁体でもあり、ビアントロンの性質を反映した構造異性化反応を示すことを確認することができた。特にビアントロンでは準安定状態として過渡的な不安定化学種としてしか観測されていないねじれ構造が極性溶媒中で支配的かつ安定的に存在させることに成功した。最終年度はメチル基を本来の解離性プロトンに戻して、目的の連鎖反応系全体を達成する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた光反応系の最終ステップとなる構造異性化反応の調査に関して、解離性プロトンに換えてメチル基を置換した誘導体を用いることで反応が進行する可能性があることを実験的に確認することができた。ねじれ構造と折り畳み構造の存在比が温度に応じて変化することを吸光スペクトルの変化およびNMRスペクトルの変化から捉えることでき、構造異性化反応の熱力学的パラメーターを決定することができた。また本研究の副産物として、この誘導体自身が興味深いソルバトクロミズムを示すことも見出すことができた。非極性溶媒中では折り畳み構造、極性溶媒中ではねじれ構造が支配的となることを確認している。以上のように本来の研究目的は当然のことながら、そこから派生した成果についても産み出しつつ、最終年度に向けて着実に研究計画は前進している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はこれまでに構造異性化反応が達成できた化合物を基に発展させていく。はじめにメチル基の脱保護をおこない、解離性プロトンとする。この時、構造異性化とプロトン移動が連鎖的に発現可能なのかについて調べる。そして以上の反応を光照射下の元でおこない、反応系全体の進行を評価する。また過渡吸収測定や顕微分光を学内および学外の研究者と連携することで実施することを計画している。連鎖反応の各構造の経時変化を追い、それらの時定数の決定、さらには固相である単結晶状態での光誘起プロトン電子移動の発現について最終年度に実施する。
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