2015 Fiscal Year Research-status Report
ラセミ化で駆動する新合成戦略を用いた系統的・網羅的な新奇機能性錯体開発
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15K05479
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
金川 慎治 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (20516463)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 機能性文 / 電子物性 / キラリティ / 外場感応性 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は革新的な複合機能性錯体の新規合成手法による物性開拓を目的とする。研究代表者らが提案する「キラリティを利用した」異核複核錯体合成手法を用いて、分子レベル、結晶構造レベルでともに【構造をよく制御された】分子系を構築し、系統的な物性評価を行うことによって新奇電子物性の開拓を目指す。 本年度は原子価互変異性コバルト複核錯体[CoCo]をベースに、1分子に含まれるコバルトイオンの内、片方を他の遷移金属イオンに置き換えた化合物群について合成、物性を検討した。光学分割した配位子(R体)を持つコバルト単核錯体と、対となる光学異性体配位子(S体)を持つ、クロム、マンガン、鉄、ニッケルの単核錯体とをそれぞれ出発物質として複核錯体を合成した。結果、一連の異核複核錯体[MCo](ここでMはS体配位子が配位したCr, Mn, Fe, Ni部位、CoはR体配位子が配位したCo部位)を選択的に得ることができた。これらの結晶構造はいずれもコバルト複核錯体[CoCo]と同形であることがわかった。この結晶構造中で、異なる光学異性体同士が面する形で分子がパッキングしており、結晶全体にわたって分子の方向がそろっていた。 磁気的測定の結果、それぞれの金属イオンのスピン数や酸化還元特性に特徴的な挙動を観測することができた。特に興味深い挙動を示したのは[CrCo]錯体であり、架橋配位子とコバルトイオンの間での分子内電子移動挙動が見られた。 これらの結果は、われわれの提唱する「キラリティを利用した異核複核錯体合成手法」によって、様々な金属組み合わせからなる一連の化合物を合成可能であることを示している。特に、異なる金属を持つ異核複核錯体を同形結晶で得られる点は、得られた物性の比較検討に極めて有利な点であるといえ、次年度以降の研究の更なる発展に期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の合成実験によって、いくつかの金属の組み合わせにおいて「一部の金属イオンのみが異なり、同様の構造をもつ異核複核錯体分子」の合成が期待通りに得られることが明らかとなった。これらはほぼ同一の合成法によって得ることができ、網羅的な物性検討の推進が比較的に用意できるものと考えられる。実際に、金属イオンの組み合わせで磁気的(電子スピン)挙動、電子移動特性等が劇的に異なる異核複核錯体が得られたこと、さらに中には興味深い外場応答特性を示すものが見出されたことはおおむね順調に研究が進んだと判断してよい。いっぽうで、本年度に合成、物性の検討まで成功したものは3d遷移金属に限定的であった。3d遷移金属と同様の方法で4d金属やランタノイドを用いた予備的な合成を検討したが、現在のところこれらからは複核錯体は得られていない。本研究ではこれら3d遷移金属以外のものも研究対象として推進することを計画していることから、合成条件等の詳細な検討が必要であることが解決すべき問題として残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策として以下の点を計画している。 1.3d系異核複核錯体の誘電特性の検討:本年度の合成手法の検討によって、各種3d遷移金属からなる異核複核錯体が合成できることが明らかとなった。これらの得られた化合物について、誘電特性測定に十分なサイズ、質を持った結晶の育成を行い、測定を行う。特に分子内電子移動を示す[CrCo]錯体については分子レベルでの双極子モーメントがその電子移動に伴って大きく変化することが量子化学計算から予測できているので、これらから優先的に実測を行っていく。 2. 4d、4f異核複核錯体の合成検討:本年度に行った予備的な合成実験からは4d,4f錯体は得られていない。しかしながら、これらの金属イオンは発光特性や酸化還元特性において3d遷移金属とは大きく異なった性質を示すことが期待でき、非常に重要である。したがって、合成条件の詳細な検討を行うことで実際にこれらの金属イオンからなる複核錯体を合成し、物性評価を行う。 3.光学活性な単核錯体を用いた混合金属結晶系の検討:キラリティを利用した分子材料開発において、分子そのものの合成過程でこれを利用することで異核複核錯体が得られることはこれまでの研究で明らかとした。一方で、同様の機構は結晶化のプロセスにおいても働くものと考えている。このことから、異なる金属を用いた外場感応性分子の構造異性体から、偽ラセミックな固溶体様の結晶が得られることが期待される。この点についてサンプルの合成を行い、物性への影響を検討することを計画している。
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Causes of Carryover |
本年度の研究は主に合成的な検討を行ったが、使用した試薬類はおおむね安価なものや研究室に既にあったものであった。このため、これらの購入金額が想定よりも低くなり、主に消耗品での次年度使用額が生じた。加えて、比較的多くの合成条件や合成原料の検討を行うことなく目的物を得ることに成功したこともこの一因である。加えて、得られた化合物の磁気的性質は研究室既存の装置で測定可能であったが、その解析や解明に時間を要した。これによって、多くの支出が見込まれる、誘電特性測定への展開までは行うことができなかったため、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度本格に着手する4d,4f金属錯体は、合成に多くの検討が必要であることが見込まれ、加えて原料が高価であることから試薬購入費として多くが必要となると考えている。加えて、誘電特性測定用のサンプルマウントや測定システム、液体ヘリウムといった冷媒等の購入を今年度に予定しており、これらに使用することを計画している。
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Research Products
(1 results)