2016 Fiscal Year Research-status Report
環転位メタセシスおよび生合成模倣反応を利用した新規骨格構築法の開発とその応用
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15K05504
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
高尾 賢一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (70287481)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | メタセシス / 骨格変換 / 生物活性天然物 / シクロブテンカルボン酸 / ブテノリド / 生合成模倣反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
特異な構造を有する標的分子をできる限り短工程で合成するには、従来にはない画期的な合成戦略が求められている。本研究者は連続メタセシス反応に着目し、今まで積極的に利用されることが少なかったシクロブテンカルボン酸エステルを基質に用いた骨格変換を伴う新規なメタセシス反応(環転位メタセシス反応)の開発に成功している。本研究では、これに生合成を模倣した反応を組み合わせることで、さらに複雑な構造を有する分子の構築を目指している。 平成28年度は27年度から引き続き、特異な構造を有する天然物アクアトリドの全合成に取り組んだ。出発物質としてパントラクトンを用いることにより、光学活性体として環転位メタセシス反応(開環-閉環メタセシス反応)の基質を合成した。シクロブテン環の歪みが大きいことから、期待した通りに効率良くγ-ブテノリドへの環転位メタセシス反応が進行した。炭素11員環の構築は、検討の結果、分子内野崎-檜山-岸反応を用いることで達成できた。次に、生合成を模倣した分子内[2+2]光環化付加反応を検討したところ、アルコール体を基質に用いた場合は非天然型の炭素骨格が得られたが、ケトン体を用いた場合に望む天然型のビシクロ[2.1.1]ヘキサン骨格の構築に成功した。 また、構造が未解明であった天然物クラビラクトンDの全合成をシクロブテンカルボン酸エステルの環転位メタセシス反応を鍵として達成した。これにより、本天然物の構造を初めて明らかにするとともに、本研究者が開発した環転位メタセシス反応の有用性を証明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アクアトリドの全合成研究については、シクロブテンカルボン酸エステルからγ-ブテノリドへと効率良く変換する環転位メタセシス反応を確立できた。炭素11員環を構築した後、生合成を模倣した分子内[2+2]光環化付加反応の反応条件を見出すことができた。これにより、アクアトリドが有する複雑な炭素骨格の効率的な構築を達成した。本合成において、当初は炭素11員環の構築に閉環メタセシス反応を予定していたが、検討の結果、分子内野崎-檜山-岸反応が効果的であることが判明した。分子内[2+2]光環化付加反応については、基質の検討を要したが、最終的には狙い通りの配向性で反応が進行し、望む生成物を得ることができた。本合成に加えて、環転位メタセシス反応を用いたクラビラクトンDの全合成および構造訂正に成功した。いくつかの研究グループがクラビラクトンを標的化合物としている中で、本全合成がクラビラクトンDの最初の例となった。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
アクアトリドの全合成研究については、基本骨格の構築を達成できたので、最終段階の官能基変換により全合成を完了したいと考えている。また、もう一方の標的化合物であるビールショウスキーシンの全合成研究も進めていきたい。従来の基質よりも酸化度の高いシクロブテンカルボン酸エステルを用いて環転位メタセシス反応を検討する予定である。現在、モデル実験を行っており、これにより得られた知見を活かしたい。
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