2016 Fiscal Year Research-status Report
四置換アルケンの選択的自在合成を行うヨウ素ー臭素ーケイ素ビニルテンプレートの開発
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15K05507
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
岩澤 哲郎 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (80452655)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 選択的合成 / 四置換アルケン / ハロゲン化 / ビニルハロゲン / シアノ化 / 臭素選択的反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に臭素-塩素-ケイ素ビニルテンプレートのケイ素基を活性化しようとフッ素試薬(テトラブチルアンモニウムフルオライドやテトラブチルアンモニウムトリフェニルシリケート)を添加したところ、臭素エチニル芳香族化合物が大量に生成した。このことは、ケイ素部位を活性化してビニルアニオンが発生しても瞬時にトランス位のβハロゲン元素が脱離してしまうことを意味している。ケイ素を第一に活性化することは異種炭素四置換アルケンを合成するにあたって得策ではないことがわかった。第二に臭素-塩素-ケイ素テンプレートの臭素位をシアン化銅でシアノ化するRosenmund-von Braun反応に臨んだ。汎用される極性溶媒下における反応条件のもとでは、βハロゲン脱離ばかりが起きてしまったが、シアン化銅とホスフィンオキサイドの混合反応剤が効果的に臭素原子のみの変換反応を促進することがわかった。しかしながら、等量のβハロゲン脱離体(シリルエチニルナフタレン)も副生してしまい、分離が極めて煩雑であることも見出された。そこで、外部反応剤や他種類のホスフィンやホスフィンオキサイド等を反応系に添加し、副生成物の発生を抑えて目的物の収率向上を目指す実験を進めたところ、ある種の銅試薬が20%ほど効率を上げることがわかった。また、3価のホスフィンよりも5価のホスフィンオキサイドの方が効果の高いこともわかった。140℃という高い反応温度の低減は未だ達成されていないが、反応時間を48時間から24時間以内に短縮することができた。また、この反応系においてナフタレン誘導体ではない別の基質を複数用いて実験を進めたところ、βハロゲン脱離体のシリルエチニルアルキンは依然として多量に副生するが、臭素位がシアノ化された生成物だけではなく塩素位がシアノ化された化合物も生成することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ビスハロゲン・ケイ素ビニルテンプレートのハロゲン原子二つとケイ素原子の合計三つの元素のそれぞれが持つ基本的な性質、およびそれらの違いに関する知見を積み重ねて進捗を図っているという視点で、おおむね順調に進展している。ビニル位ケイ素の活性化実験を通して、トランス位に所在するビニル塩素原子が極めて外れやすいことが見出された。αビニル位臭素のRosenmund-von Braunシアノ化がいくつかの添加剤によって促進されることはわかったが、それでもなお140度程度の高い反応温度が必要であり、βハロゲン脱離反応を抑制することは難しいことが見出された。また、基質の種類によっては、ビニル位臭素だけではなくケイ素のアンチボンディングに所在するビニル位塩素まで活性化されることも見出された。これらのことから、どうもケイ素原子から見てβ位にある炭素―塩素結合はかなり緩んでいるように見受けられる。また、ケイ素原子を先に活性化してもハロゲン脱離がどうしても起きてしまい、反応の効率が悪いだけでなく精製の手間も増えてしまう。したがって、基質の活性化の順序は、β位のハロゲン、α位のハロゲン、最後にケイ素位の置換、のとおりに炭素-炭素結合形成を行う方が良いことが分かる。このように、それぞれのヘテロ元素とアルケン炭素との結合の強度、および活性化の順番に関して確かな実験情報を得ることができたので、元素の種類や元素の位置の違いに応じた化学選択的な活性化について見通しがついてきた。この見通しをベースにすれば、我々が独自に開発したビニル位ヘテロ元素テンプレートを用いた異種炭素四置換アルケンの選択的な自在合成が達成できる可能性が高まってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
我々が独自に開発したハロゲン-ハロゲン-ケイ素化ビニルテンプレートのハロゲンの種類を変更した上で、片方のハロゲンを高選択的に活性化する方策をとる。ハロゲンの種類としては、ヨウ素-ヨウ素、臭素-臭素、塩素-塩素といった同一ハロゲン元素の導入を考えている。過去に我々がすでに報告しているシリルエチニルアレンのハロトリメチルシランとN-ハロスクシンイミドを用いたin situ選択的ハロゲン化を使って、三つのヘテロ元素がビニル位に結合したテンプレート分子を用意する。ケイ素-炭素結合とアンチペリプラナーの関係にあるハロゲン-炭素結合が最も活性化されやすいという仮説をベースにして、ハロゲン元素の位置選択的なRosenmund-von Braunシアノ化を実施する。その後は、残るもう一つのハロゲン元素をパラジウムや銅触媒によるクロスカップリング反応をベースにして炭素置換基に変換し、最後にケイ素基をハロゲン元素等に変換後に炭素置換基に変える。こうすることで、異種炭素四置換アルケンを形式的かつ単純明快に自在合成できるはずである。分子化学の視点ではβハロゲン脱離を抑えることが最も肝要であるため、低い反応温度で炭素-炭素結合形成を実施できるようにする。そのために、これまでに試してきた銅試薬やホスフィンオキサイド等の添加剤の活用や組み合わせの実験遂行が鍵であると考えている。高選択的なRosenmund-von Braunシアノ化が進行すれば、触媒的クロスカップリング反応を開拓してシアノ基以外の炭素置換基導入を試験して本研究を推進する。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じたのは、ナフタレン誘導体の臭素-塩素-ケイ素ビニルテンプレートのRosenmund-von Braunシアノ化における反応性検討および添加剤の検討実験等を多数こなしたためである。当初計画では、ケイ素基の活性化とそれに続く炭素置換基の導入法を見いだすことができると考えていた。しかしながら、どうしてもβハロゲン脱離反応ばかりが起きて目的物が全く認められないという状況に陥ってしまった。そこで、実験計画を3つの化学的に非等価なヘテロ元素の各性質の違いを丁寧に精査するものへと変え、検討実験へと移った。また、ナフタレン誘導体だけではなく、チオフェン誘導体やオルトメトキシフェニル誘導体、パラメトキシフェニル誘導体の臭素-塩素-ケイ素ビニルテンプレートを用いる反応性検討を実施した。その結果、今後の研究指針となる基礎的基盤的知見の収集に成功した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の使用計画について、第一に位置選択的なハロゲン選択的活性化に資金の充当を行う予定である。現在のところ、臭素と塩素それぞれのみを2つのハロゲン元素としてビニル位に持つビシナル(Z)-ジブロモアルケニルシランおよびビシナル(Z)-ジクロロアルケニルシランを調製して、β位の臭素または塩素原子のみを活性化する実験研究に臨む。Rosenmund-von Braun反応によるシアノ基の導入を試み、それがうまく行けば銅やパラジウムを触媒とした炭素-炭素結合形成反応を実施し、β位への位置選択的炭素置換基導入に道筋を付ける。その後は、α位の臭素または塩素を、クロスカップリング法により触媒的に活性化して炭素置換基を導入する。最後にケイ素原子を活性化してヨウ素に変換し、自在な異種炭素四置換アルケン合成に備える。トリイソプロピルシリル基のヨウ素への簡便変換法の開発にも注力する。
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Research Products
(4 results)