2016 Fiscal Year Research-status Report
バイオマテリアルの生体適合性制御を達成する高分子合成法の開発
Project/Area Number |
15K05512
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小林 慎吾 九州大学, 先導物質化学研究所, 学術研究員 (70625110)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 精密重合 / 定序性高分子 / regio選択的重合 / Grubbs触媒 / 開環メタセシス重合 / 血液適合性材料 / バイオマテリアル |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子バイオマテリアルが発現する生体適合性の制御を達成するためには、一次構造が厳密に制御された合成高分子材料を用い、1)高分子構造とその材料表面物性、2)材料表面物性とその水和構造、3)水和構造と吸着タンパク質の変性、4)吸着タンパク質の変性と細胞挙動、について、段階的かつ総合的に解明していくことが不可欠である。 本研究では、側鎖配列が厳密に制御された高分子の合成法の確立と、その生体適合性材料への応用に関する研究を通じ、上記1)~4)について段階的かつ総合的に解明し、高分子バイオマテリアルの生体適合性制御を達成する高分子合成法を開発することを目的に研究を行っている。 平成28年度は、前年度に合成に成功したポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)と全く同様の側鎖構造を有し、かつ側鎖間隔が2炭素(PMEA)、5炭素、7炭素、8炭素に厳密に制御された高分子を用い、その血液適合性評価およびタンパク質吸着・変性挙動の解析を行った。その結果、側鎖間隔が5炭素の場合に中間水量が極大を示し、PMEAと同程度の極めて高い血小板粘着抑制能を示すことが分かった。また、導入する側鎖構造を水酸基とすることで官能基構造を簡素化し、その導入密度を一定に保ちつつ配列の規則性のみが異なる高分子を合成することに成功した。機能評価の結果、導入した側鎖の配列の規則性が高いものほど高含水率、高親水性を示すことが分かった。加えて、側鎖配列の規則性が高いものほど血小板粘着抑制能が高いことが分かった。さらに、ビニル重合体を用いて血小板粘着抑制に最適な側鎖構造の探索を行った結果、化学構造の一般化が可能であるとの感度を得た。 上記の研究過程で得られた成果については、投稿論文、学会発表によって報告を行っており、今年度はMacromoleculesをはじめ論文5報、国際学会発表7件、国内学会18件の報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究課題の進捗状況に関しては、おおむね順調に進展しているといえる。今年度は2015年度に引き続き、九州大学先導物質科学研究所への異動に伴う研究環境の整備を継続しつつ、年度内に目標としていた高分子合成を達成し、得られた高分子の抗血栓性評価や、タンパク質吸着・変性挙動の解析へと進展させることができた。 研究実績に記載した高分子合成のうち、側鎖間隔が制御されたPMEA類似体の合成に関しては、計画当初に目標としていた4種の高分子を全て合成することに成功し、さらに側鎖間隔を変更した高分子の合成へと進展させることができた。得られた高分子については非常に高い規則性を有する高分子が得られていることを確認している。また、側鎖配列の規則性が親水性や生体適合性に及ぼす具体的な影響・効果について、配列の規則性が高いものほど高い機能を発現することを確認できたことは、今年度に得られた大きな収穫であるといえる。ビニル型高分子を用いた側鎖構造の拡張に関する検討では、抗血栓性の発現に寄与する側鎖構造について一般化が可能であるとの感度を得ることができた。 得られた高分子の生体適合性評価については、血小板粘着試験による血液適合性の確認を行い、側鎖間隔に最適値が存在することや、側鎖配列の規則性を高めると血液適合性の向上に有効であることなどが確認できた。 年初に予定していた合成用機材、評価機器の導入が年度末へと延期されたため、予定していた予算の執行が次年度にずれ込んだものの、合成ならびに生体適合性の評価はほぼ予定通りの進捗状況となっており、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015~2016年度を通じて合成してきた高分子については、血小板粘着試験による抗血栓性評価を継続する。高分子の化学構造と水和構造、および発現する抗血栓性の相関性に関する知見の獲得を進め、モノマー構造の設計や、高分子バイオマテリアルの機能制御に向けた高分子構造の設計に反映する。 また、これまでに行ってきた高分子合成の結果から、側鎖間隔の厳密な制御に必要なモノマー構造の要件をおおよそ特定することができたため、今年度に行うモノマー合成、高分子合成に対してその知見を反映し、さらに側鎖間隔を狭めた高分子の合成に挑戦する予定である。 これまでに本研究室で行われてきた研究の過程で、合成高分子が発現する生体適合性、とりわけ抗血栓性に関しては、高分子が発現する「中間水」と呼ばれる特殊な水和構造の発現が不可欠であることが明らかになっており、その発現量について閾値とも呼べる最低限の必要量が見出されている。本研究で合成した高分子について、その水和構造の解析を行った結果、側鎖の化学構造ごとに最適な側鎖の間隔や導入密度が存在し、既存の抗血栓性高分子であるPMEAと同様の化学構造を有する場合でも、PMEAを凌駕する中間水量を発現させることが可能であることがわかった。上記の結果を踏まえて、高分子の化学構造と水和構造、および発現する抗血栓性の相関性について検討を進め、高分子バイオマテリアルが発現する生体適合性の精密制御を達成する高分子合成法の確立につなげていく予定である。 加えて、申請者が継続的に行っている新規ビニル型高分子を用いた高分子構造と生体適合性の相関性の解明に関する研究の過程で、極めて高い抗血栓性を発現し、かつタンパク質の吸着・変性挙動を制御しうる側鎖構造が見出されたため、本研究で導入する側鎖構造にもその知見を反映し、さらに高い機能を発現する高分子バイオマテリアルの創出を試みていく予定である。
|
Causes of Carryover |
所属グループにおいて当該年度開始早々に導入を予定していた合成用機器(グローブボックス)の導入が年度末(2017年3月)にずれ込んだため、上記の機器を使用する前提で購入を予定していた実験機器類の購入が次年度にずれ込んだため。当該機器は2017年度開始早々に購入、運用を開始する予定である。また、旅費に関しては雇用財源(エフォート)の関係で科研費からの執行を認められず、申請予算額との間に差が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
導入予定機器の選定は終了しており、2017年度上期には使用する予定である。また、エフォートの変更が認められたため、旅費として申請した予算も次年度以降に使用する予定である。
|