Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に検討した片末端会合性非絡み合い直鎖の系について, 誘電緩和測定を行った. この系では, 単量体鎖と二量体鎖の会合/解離平衡状態にあり, 会合/解離反応を通じて単量体鎖と二量体鎖の運動モードにカップリングが生じているため, 会合/解離反応がない場合の単量体鎖と二量体鎖のダイナミクスからそれぞれ異なっていることを理論的に示し, 粘弾性測定でその予測が正しいことをすでに確認している. 誘電緩和は, 粘弾性緩和と同一の鎖の熱運動を, 電気双極子の熱運動として検出する. このため, 粘弾性緩和ではまったく異なっていた非絡み合い直鎖, 会合/解離反応がない単量体鎖と二量体鎖の誘電応答が完全に一致することを実験的に示した. さらに, 両末端に会合基を有する非絡み合いテレケリック直鎖高分子の可逆的な会合/解離反応とダイナミクスを理論的に検討した. 希薄状態において, このモデル高分子は, 鎖の両端が近傍に存在する場合にのみ, 分子内会合により環状の形態をとりうる. すなわち, 系は環状鎖と直鎖の会合/解離平衡状態にある. このとき, 上述の片末端会合直鎖の系で検討したように, この会合/解離反応によって, 環状鎖と直鎖の運動モードにカップリングが生じ, 会合/解離反応がない場合の環状鎖や直鎖のダイナミクスとは異なることが予想された. 実際, 理論解析の結果, この運動モードのカップリングにより, 環状鎖の配向緩和は遅延され, 直鎖の配向緩和は加速されることが導かれた. この運動モードのカップリングは, 環状鎖の対称性を破り, 長時間域で環状鎖の配向異方性の振動を引き起こすこと, また, 直鎖の鎖端と中央での配向異方性の差の減少をもたらすことを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り, 化学平衡にある環状鎖と直鎖の会合/解離反応とダイナミクスを理論的に解析した. この結果は, 絡み合ったテレケリック直鎖高分子のダイナミクスを検討する上での布石となるため, 学術的に意義深い. また, 粘弾性緩和と誘電緩和の併用により, 会合性高分子ダイナミクスの詳細な知見を得ることができたことは, 重要な結果である.
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Strategy for Future Research Activity |
両端にカルボキシル基を有するポリイソプレン(acid-end PI)を合成する. このacid-end PIが, 環状鎖と直鎖が会合/解離平衡状態にあるような希薄溶液を調製し, そのダイナミクスを粘弾性測定, 誘電測定を用いて実験的に検討する予定である. さらに,平成 27, 28 年度に合成した acid-end PI について, 大変形下での非線形応力緩和測定を行ない, 速い過程の緩和時間 τfast と遅い過程の緩和時間 τslowの歪み (γ) 依存性を検討する. 直鎖 PI, 星形 PI についても測定を行ない, τ が γ に依存しないことを確認する. acid-end PIのτfast とτslowの γ 依存性を会合点の力学的開裂 (会合点数減少) と対応付け, この減少を絡み合い鎖に対するMilner-McLeish モデル, Mead-Larson-Doiモデル, 非絡み合い鎖に対するRouse モデルに導入して解析を行なう. その結果を末端解離ダイナミクスに由来する特徴的非線形性としてまとめ, 論文発表, 学会発表を行なう.
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