2016 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質・プローブペアを用いた細胞内アルカリ金属イオン動態の可視化
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15K05529
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
寺井 琢也 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員 (00508145)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子認識 / 合成化学 / 共焦点顕微鏡 / 蛍光センサー |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に主に取り組んだカリウムイオンを検出するタグタンパク質ラベル化型蛍光プローブの知見を基に、本年度はナトリウムイオンを検出する新規蛍光プローブの開発に注力した。ナトリウムは細胞外液中に最も多く含まれるアルカリ金属イオンであり、生体の恒常性維持、神経活動、筋肉収縮など様々な生命現象に深く関係する。しかし、細胞内の特定の小器官における濃度変化を検出可能なプローブは存在しなかった。そこで我々はまず、ナトリウム選択的キレーター、蛍光団、HaloTagリガンドの3要素からなる新規蛍光プローブ分子を設計・合成した。合成したプローブは生理的条件下ナトリウムに応答して蛍光強度が約3倍に上昇した。またHaloTagタンパク質と選択的かつ速やかに共有結合を形成し、タンパク質との複合体の状態でもナトリウムへの応答性を保持していた。続いて本プローブを生細胞にロードし、細胞内に一過性発現させたHaloTagタンパク質との結合条件ならびに未反応プローブの洗浄条件を検討した。その結果、タンパク質発現細胞のみにプローブを局在させることに成功した。これらの検討の後イオノフォアを用いて細胞内のナトリウム濃度を変化させたところ、プローブの蛍光強度はナトリウム濃度に応じて変化したものの、細胞ごとにプローブの存在量が異なるためばらつきの多いデータとなった。そこで発現マーカーとしてプローブとは異なる波長の蛍光タンパク質を利用し、両者の比を取ることで定量性を向上させる工夫を施した。HaloTagタンパク質の局在はシグナルペプチドによって自由に制御可能であるため、本プローブは目的の細胞小器官におけるナトリウム濃度を可視化する有用なツールとなることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、ナトリウムイオンに対するタンパク質ラベル化型蛍光プローブの開発に成功し生細胞を用いたイメージングまで達成できた。プローブの蛍光強度変化は期待していたよりも小さかったものの、一定のバックグラウンドが存在する事は、マーカータンパク質との強度比を取る上ではむしろ適しているとも考えられる。開発したプローブ分子は水溶性や非特異的局在を防止する観点からフルオレセインを蛍光母核に用いている。そのため、イメージングにおいてはエステル体として細胞膜を透過させた。この場合、細胞内の標的タンパク質と反応しなかった分子を洗浄除去するのに数時間のインキュベーションが必要になるが、多くの実験においては許容できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
開発したプローブを用いて、細胞内の特定小器官におけるナトリウムイメージングに取り組む。具体的には、核・ゴルジ体・リソソーム等にHaloTagタンパク質を選択的に発現させ、合成したプローブで標識して蛍光イメージングを行う。また、現在のプローブにはpH依存性や蛍光強度変化率などに改善の余地があるため、分子設計の工夫でより優れたプローブの開発を目指す。それらの結果も踏まえ、研究成果の取りまとめを行う。並行して、進化工学的手法を活用して新たなタンパク質ラベル化技術の開発にも取り組む。
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Causes of Carryover |
当該年度の始めに研究代表者が研究機関を異動したため、研究設備等を移転して実験ができるように立ち上げるまでに一定の時間が掛かった。また購入する予定であった生物実験用の試薬や消耗品類の一部は既に研究室にあるものを使うことができたため、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在所属している研究室では有機合成や分光学実験に必要な実験装置類が相対的に不足しているため、実験室にスペースを捻出して順次必要な物品をそろえる。また、成果発表のため国際学会への参加を予定している。
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