2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05547
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
長谷川 太郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (80289305)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々田 博之 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30146576)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光周波数コム / 赤外線分光 / ヘテロダイン検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素と水素の結合をもつ分子は、近赤外波長域に振動回転遷移を豊富に持っている。これらの分子は、温室効果ガスであるため、その発生源の特定などのために分光学的に検出することが重要である。本研究では、これらの分子のスペクトル線を、狭線幅かつ広帯域で高速に記録する分光法を開発する。具体的には、波長1.55マイクロメートル帯域で発振する光周波数コムを、分光用光源として直接利用し、飽和吸収分光を行う。 光周波数コムは繰り返し周波数が正確に制御された長短パルス発振レーザーであり、広い波長帯域にわたって等間隔に多数の周波数で同時に発振するレーザーである。すなわち、約数10万のレーザーが同時に発振しているのと同等のレーザーである。この特徴を狭線幅レーザー分光用光源として直接利用することが、本研究の骨子である。 前年度に、連続発振レーザーを使って、光周波数コムの強度を検出する方法を考案し、メタンの吸収スペクトルを記録することに成功した。本年度は、光検出方法を改良し、検出感度を向上させた。昨年度の段階では、検出信号のほとんどは吸収スペクトルと無関係の信号であったため、増幅器で増幅できないなどの問題があった。本年度、バランス検出の方法を用いて、吸収スペクトルと無関係な信号を取り除くことができた。 また、本研究の欠点は、「光周波数コムの繰り返し周波数で分解能が制限される」ことである。これを解決するために、強度変調の手法を用いて光周波数コムの繰り返し周波数を実質的に低減することを試みた。この結果、従来の繰り返し周波数を1/8にすることができた。この結果により、分解能を8倍に向上させることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究成果で、メタンの吸収スペクトルを検出することができた。本年度は、検出感度を向上させる目的で、バランス検出による不要な信号の除去を行った。従来の光検出方法では、光周波数コムの繰り返し周波数とその整数倍の周波数に、非常に強い信号が存在していた。これは、分光に必要な信号よりも強く、そのため、感度の高い検出を困難にしていた。これを解決するため、バランス検出の手法を用いて、この不要な信号を取り除くことにした。その結果、不要な信号の強度は、ショットノイズレベルにまで低減することができ、実質的に取り除くことができた。 また、昨年度は連続発振レーザーとして分布帰還型レーザー(DFBレーザー)を使用していた。このレーザーの周波数は安定しており、非常に使い勝手の良いレーザーであるが、スペクトル線幅が広いという欠点があった。より狭い連続発振レーザーを使用することにより、スペクトル線の検出感度を向上させることができるので、DFBレーザーをよりスペクトル幅が狭い外部共振器型レーザーに置き換える。前年度、連続発振レーザーの発振周波数を安定化することによりメタンの吸収スペクトルを感度よく検出できることが分かったので、現在は外部共振器型レーザーの発振周波数を安定化することを行っている。 また、本分光手法の分解能は、光周波数コムの繰り返し周波数で制限されている。このため、繰り返し周波数が低い光周波数コムを使用することが、高分解能分光のためには必須である。この目的のため、強度変調器を購入し、それを使用して繰り返し周波数を低減化した。光周波数コムの光強度をモニターし、その時間変化に同期・分周した信号を強度変調器に印加する。すると、強度変調器より分周された光が出力された。この結果、1/8の繰り返し周波数に低減化された光パルス列を得ることができた。これにより、高分解能分光が可能になると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
連続発振レーザーを外部共振器型レーザーに置き換えることができたので、次にこのレーザーの発振周波数を安定化する。これにより、従来よりも分光感度を向上させることができると期待できる。 本年度実施した光周波数コムの繰り返し周波数低減化の方法は、非常に有効な方法である。しかし、欠点も存在する。最大の欠点は、光強度が弱くなることである。例えば、今回のように繰り返し周波数を1/8にすると、光周波数コムのモード当たりのパワーは1/64になる。一方で、パルスのピークパワーには変化がないため、光を増幅することも難しい。そこで、今後はこの問題点を解決することが目標である。具体的には、強度変調の代わりに位相変調を行って繰り返し周波数の分周化をする方法を実施する。この方法では、強度の繰り返し周波数は変化しないが、位相の繰り返し周波数を遅くすることにより、実質的に分光法の分解能を向上させる。強度に関しては変化しないので、光周波数コムのモード当たりのパワーは1/8に低減するだけで済み、また、光を増幅することも可能である。
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Causes of Carryover |
光周波数コムの繰り返し周波数を低減化するために光位相変調器を購入する予定であった。しかし、メーカー在庫がなく、年度内の購入ができなかった。メーカーによると、4月以降には購入できるとのことであった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
光位相変調器を購入し、光周波数コムの繰り返し周波数を低減化する。また、それを使って本研究手法によるメタンの分光を行う。
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