2015 Fiscal Year Research-status Report
ホウ素の高効率・高選択的分離のための高次機能化樹脂の開発と分離能評価
Project/Area Number |
15K05551
|
Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
岩月 聡史 甲南大学, 理工学部, 准教授 (80373033)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 固相抽出 / 樹脂開発 / ホウ素 / 分離技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、水溶性ホウ素の高効率・高選択的な分離・回収・再利用技術の確立を目指し、その礎となる高次機能化樹脂の開発とホウ素の分離能評価を行う。具体的には、ホウ酸との錯体形成能が高いキレート配位子部位と、錯体生成後のホウ酸キレート錯体陰イオンの負電荷を中和する対陽イオン部位の両方をもつハイブリッド機能樹脂を創製し、樹脂に取り込まれるホウ素化学種を安定化することにより、高い回収効率を狙う。初年度である本年度は、上記の研究戦略の妥当性を検証するべく、ホウ酸との錯体形成能が高いとされるグルカミン誘導体をキレート配位子部位とし、ここに対陽イオン部位を導入してハイブリッド機能化した樹脂による水溶性ホウ素の捕集能を検討した。 まず、市販のホウ素除去用キレート樹脂(グルカミン樹脂)に含まれるグルカミンの第3級アミン部位に臭化エチルを作用させて第4級アンモニウム化した修飾樹脂を合成した。この樹脂によるホウ素捕集能を検討した結果、塩基性条件下(pH > 10)において、市販樹脂よりも20%程度高い捕集率が得られた。また、ハロゲン化メチル基が修飾された市販の樹脂に対して、グルカミン部位とピリジニウム部位を段階的に導入したハイブリッド修飾樹脂を合成した。このハイブリッド修飾樹脂によるホウ素捕集能を、片方の機能部位のみを導入した修飾樹脂と比較したところ、ハイブリッド修飾樹脂のほうがはるかに高いホウ素捕集率を示すことがわかった。これらの結果から、キレート配位子部位と対陽イオン部位の両方をもつ樹脂がホウ素捕集に有効であり、本研究の樹脂開発戦略が妥当であることが示された。 そのほか、分子構造の異なるキレート配位子と水溶性ホウ素化合物の反応解析を通じて、より優れたキレート配位子部位に関する知見を得た一方で、環境に優しい選択的抽出法に関する研究を通じて、本研究の目指す環境適応型分離法に資する情報を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来のホウ素除去用樹脂は、ホウ酸とのキレート錯体形成反応のみを固相抽出の反応として用いてきた。一方で、錯体形成によって生ずるホウ酸キレート錯体は陰イオン種であり、これを樹脂中に安定に保持するには対陽イオンが必要となる。これらの着想点から、本研究では、キレート樹脂とイオン交換樹脂の双方の機能を付与した高次機能化樹脂が、より高いホウ素捕集能を有すると予測した。そこで、研究初年度である本年度は、上記の着想点および樹脂開発戦略の妥当性を判定する必要があった。 『研究実績の概要』に記した通り、キレート配位子部位と対陽イオン部位の両方を化学修飾した高次機能化樹脂(ハイブリッド機能樹脂)は、(i)市販のホウ素除去用キレート樹脂に対陽イオン部位を修飾する方法、および(ii)市販のハロゲン化メチル基修飾樹脂にキレート部位と対陽イオン部位の双方を修飾する方法のいずれにおいても、ホウ素捕集率を向上させることが明らかとなった。これにより、本研究の方針・内容の妥当性が示された点は初年度の大きな成果である。また、水溶性ホウ素化合物とキレート配位子との反応解析を通じて得られた有用なキレート配位子部位に関する知見は、当初の計画より先行して得られた成果である。 なお、上記の化学修飾樹脂におけるキレート部位と対陽イオン部位の導入率とホウ素の捕集率との相関は現時点では不明確であり、2年目に継続して検討していく必要がある。 本研究は環境に優しいホウ素の分離回収技術を目指しているが、本年度はイオン液体による環境適応型の選択的抽出法に関する研究成果も得られ、これは将来的に極めて重要な知見となり得る。 以上を初年度の進捗状況を総括すると、当初の計画の根幹は達成され、また先行した成果と検討中の内容があるため、総じて「おおむね順調に進展している」と判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に合成した化学修飾によるハイブリッド機能樹脂については、キレート配位子部位および対陽イオン部位の導入率とホウ素捕集挙動との相関を検討し、ホウ素捕集に最適な導入率を明らかにする。その際には、試料溶液中のpHとホウ素捕集率との相関などについても検討を行う。また、より優れたキレート配位子部位および対陽イオン部位の探索を、初年度と同様の化学修飾法を用いて進める。 上記と並行して、当初の2年目の研究計画である「キレート配位子と対陽イオンの各モノマーを共重合させたハイブリッド機能樹脂」の創製とホウ素捕集能の評価を行う。既存の樹脂に機能部位を化学修飾する手法では、機能部位の導入量が樹脂表面に限られるため、樹脂の単位質量当たりのホウ素捕集量の向上には限界がある。そこで、各機能部位をもつモノマーをラジカル共重合させた樹脂を合成し、樹脂中の各機能部位の含有量を大幅に増加させることにより、ホウ素捕集能の飛躍的な向上を狙う。キレート配位子部位のモノマーとしては、まずグルカミン誘導体モノマーを検討し、さらに他の多価アルコールキレート配位子モノマーに展開する。また、対陽イオン部位のモノマーとしては、アンモニウムモノマーおよびピリジニウムモノマーを候補として検討する。この課題においては、用いるモノマーの種類によってハイブリッド機能樹脂の物性が大きく変化する可能性があるため、安定した高いホウ素捕集能を有する樹脂の合成条件を含めて検討する。 以上の検討によって創製される高いホウ素捕集能を有するハイブリッド機能樹脂について、共存イオン種の影響(ホウ素捕集の選択性)や、適応pH範囲などを検討し、開発した樹脂の実用性に関する知見を得る。 なお、本研究の最終年度の挑戦的課題である刺激応答性多機能樹脂の創製についても進捗状況に応じて順次進める。
|
Research Products
(4 results)