2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05555
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松井 敏高 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90323120)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酵素反応 / 反応機構 / 1原子酸素添加 / 2原子酸素添加 / ヘム代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、結核菌由来の新型ヘム分解酵素(MhuD)の特殊なヘム分解機構の解明を進めた。これまでの研究により、MhuDと従来型ヘム分解酵素(HO)の反応分岐点が“水酸化ヘム”中間体であることが示唆されている。まず水酸化ヘムの生成を確認するため、嫌気条件でヘム-MhuD複合体と過酸化水素の反応を行った。主生成物として得られたのは不活性型の鉄4価錯体であったが、還元剤の存在下、過酸化水素との反応を繰り返すと水酸化ヘムの蓄積が確認された。よって、MhuDの初反応は「効率の悪い」自己水酸化(1原子酸素添加)であることが証明された。 次いで水酸化ヘムの開環機構を検討した。通常、ポルフィリン環の開裂には分子状酸素に加えて、還元剤や過酸化水素が必要であるが、MhuD反応では酸素のみで開環が進行した。さらに、酸素の必要量は水酸化ヘムに対して1モル当量であったため、2原子酸素添加機構が示唆された。実際、酸素との反応で生じる中間体について同位体ラベル実験を行ったところ、1つの酸素分子から2つの酸素原子が基質に取り込まれていることが示され、2原子添加機構が証明された。さらに反応解析を進めた結果、酸素は中心鉄ではなくポルフィリン環を直接攻撃し、ジオキセタン中間体を経由して開環すると提案された。酸素との反応で観測された中間体は、各種分光測定や質量分析の結果、鉄-マイコビリン錯体と示唆された。 以上の成果により、MhuDによるマイコビリン生成機構はほぼ解明された。MhuDの特殊な代謝反応は2つの酸素添加モードの機能的な融合で生み出されることが示された。異種機能の融合は酵素機能の可能性を広げる設計戦略として、生物的にも重要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヘム代謝反応は多段階に渡る複雑な反応であるが、今年度の研究で新規MhuD反応機構のほとんどを解明することに成功した。特に、従来は想定もされていなかった2原子酸素添加による開環反応を発見したことは高く評価され、主な研究成果はProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A誌に掲載された。2原子酸素添加の証明には生成物の同位体ラベル実験が行われるが、ホルミル基と水分子の酸素交換のために明確な結果は得られなかった。しかし、反応中間体をタンパク質複合体のまま測定する手法の開発に成功したことで、酸素交換の影響を排除した機構決定が可能となった。今後、同様の手法は酵素メカニズム研究の重要なテクニックの一つになるとも考えられる。PaOタンパク質の研究については少し遅れがあるものの、既に基本的な発現系の構築を終え、発現条件や可溶化タグの最適化を進めており、次年度には十分な成果が得られると考えている。以上のことから、現在までの達成度は「概ね順調に進展している」ものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、水酸化ヘム-MhuD複合体の結晶構造を決定することで、その特殊な反応性を探るために必須な構造情報を得る。水酸化ヘム複合体の結晶化にあたっての最大の難関は、嫌気条件での水酸化ヘム-MhuD複合体の調製である。MhuDは複数のヘムが結合可能なため、1:1複合体を選択的に得ることが難しい。しかし、活性部位近傍のアミノ酸残基を置換するとヘムが1分子しか結合しなくなることを見いだしており、このMhuD変異体の反応特性には変化がないことを確認している。まず、このMhuD変異体のヘム複合体について結晶化・構造解析を行い、同様の条件での水酸化ヘム複合体の構造決定を試みる。 第二に、PaOの大量発現系を確立する。現在までに構築した基本的な発現系を元に、発現条件やタグを最適化し、活性型酵素の高純度精製を目指す。大腸菌の基本的な発現系ではPaOは不溶性タンパク質として発現されるが、現在までに可溶化タグの付加による可溶化に成功している。今後は精製用のアフィニティータグを最適化し、高純度の酵素調製を目指す。さらに、既報に倣って効率的な活性測定系を構築し、酵素活性を指標として、発現条件・添加物・精製方法などを最適化する。また、ICP-MSやLC-MSなどの測定によって酵素に含まれる補酵素・金属を同定・定量し、基礎的な構造情報を探る。良質な酵素が得られれば、結晶化スクリーニングを行って、構造解析の可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
繰越額の内、およそ半額は論文掲載の遅れに依るものである。年度内での掲載・支払いのために留保していたものの、掲載時期が少し遅くなり、手続き上、次年度に繰り越すこととなった。残りの半額は、MhuDの反応機構が予想よりも単純であったことが主な要因である。2原子添加による開環反応により、検討すべき反応ステップが減り、研究経費も低減された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由で述べたように、およそ半額の繰越費は既に発表された論文の掲載費に充てるものであり、既に手続きを進めている。残りの半額は、技術支援員の人件費に充て、MhuD変異体の大量調製・結晶化スクリ-ニングを担当させることで、より迅速な研究遂行を目指す。
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Research Products
(9 results)