2017 Fiscal Year Research-status Report
核内受容体LRH-1による転写調節の分子メカニズム解明
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15K05578
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
湯本 史明 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任准教授 (30360150)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 転写因子-DNA複合体 / 核内受容体 / DNA2重鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
Liver Receptor Homolog-1(LRH-1, 遺伝子名NR5A2)はヒト核内受容体ファミリーに属するタンパク質の一種であり、肝臓、膵臓、小腸、卵巣、乳腺等において遺伝子発現を制御している。さらに初期発生においても重要なはたらきをしていることが知られ、特に胚性幹細胞において多能性維持因子であるOct3/4の遺伝子発現を制御している。LRH-1はN末端から4つのドメイン、すなわち、N末端ドメイン、ZnフィンガーとFtz-F1モチーフと呼ばれる領域から構成されるDNA結合ドメイン(DNA Binding Domain : DBD)、ヒンジ領域とよばれるリンカードメインそしてリガンド結合ドメイン(Ligand Binding Domain : LBD)によって構成されている。また、LRH-1は膵臓癌、乳癌との関わりも報告されたことで、創薬ターゲットとして認識され、立体構造情報のあるLBD、特にリガンド結合ポケットを対象とした低分子薬剤候補化合物のスクリーニングが行われてきた。本研究では、LRH-1全長分子の発現、精製、DNAレスポンスエレメントとの複合体としてのサンプル調製を行い、結晶化を試みてきたが、現在までに結晶化には至っていない。これはLRH-1全長分子が天然変性領域を含むと考えられるヒンジ領域を含み、この領域の両端にDBDとLBDが位置することで、それぞれのドメインが独立な運動性をもつことによって、結晶化を困難にしていることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヒトLRH-1全長タンパク質は、当初、ヒスチジンタグ付きタンパク質として大腸菌で発現させ、精製を行っている。この際にはNi2+アフィニティーカラムから溶出した後、直ちにレスポンスエレメントDNAを含む2重鎖と混合することによって、構造解析用サンプルとしてきた。これは、LRH-1全長分子単独では溶出後、すぐに会合を起こし、沈殿となってしまうためである。DNAとの複合体形成によって、LRH-1全長分子、特にZnフィンガーとFtz-F1モチーフによって構成されるDBDが安定化するためであると考えられる。また、本ヒスチジンタグの上流にはTEVプロテアーゼサイトを導入していたことから、LRH-1全長分子-DNA複合体を調製した後、ヒスチジンタグ付きTEVプロテアーゼと混合し、低温室で透析を行いながら、一晩タグ切断を行い、Ni2+アフィニティーカラムに再度通すことによって、タグのないLRH-1全長分子-DNA複合体を再現性よく調製することができることがわかった。この複合体サンプルはゲルろ過カラムSuperdex 200 10/300カラムに通すことで、複合体のピークフラクションとして調製することができる。ただ、若干、LRH-1全長分子に混在した大腸菌由来のプロテアーゼによると考えられる分子の切断が観察されることもわかった。したがって、今後のサンプル調製の際には、この切断を最小限に抑え、またゲルろ過後のフラクションについて、LRH-1全長分子-DNA複合体のみのフラクションを注意深く選び出す必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験から、LRH-1全長分子とDNAとの複合体の結晶化は困難であることから、今後はヒスチジンタグなしLRH-1全長分子-DNA複合体を調製した後、X線小角散乱解析および電子顕微鏡解析を中心に構造解析に取り組んでいきたいと考えている。X線小角散乱解析(SAXS)については、放射光施設Photon FactoryのBL-10CあるいはBL-15A2において、ゲルろ過(Size Exclusion Chromatography, SEC)とSAXSを組み合わせたSEC-SAXSや多角度光散乱(MALS)と組み合わせたSEC-MALSにより分子概形の解析、分子量推定を行いたいと考えている。また、ここ最近、世界からはクライオ電子顕微鏡解析によるタンパク質あるいはタンパク質複合体の高分解能構造解析例の報告が相次いでいる。さらには日本においても共同利用を目的としたクライオ電子顕微鏡装置の設置の導入が進んでいる状況にある。そこで、このLRH-1全長分子-DNA複合体について、クライオ電子顕微鏡解析を試みたいと考えている。この複合体は分子量約80 kDaであることから、クライオ電子顕微鏡解析を適用するには未だ“小さな”分子複合体に分類されるものである。したがって、この複合体の構造解析を実現するためには、(1)LRH-1のモノクローナル抗体との複合体化、(2)クライオ電顕で観察できることが知られている分子量の大きな分子との複合体化、といった工夫が必要であると考えられる。
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Causes of Carryover |
LRH-1全長分子-DNA複合体についてSAXSや電子顕微鏡解析を行いたいと考えている。
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Research Products
(4 results)