2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05626
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
向井 貞篤 京都大学, 工学研究科, 特定准教授 (30371735)
|
Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2019-03-31
|
Keywords | 非平衡開放系 / ゲル / マイクロ構造 / 音波 |
Outline of Annual Research Achievements |
ローダミン修飾したアクリロイル基導入CHPナノゲルと末端にアクリロイル基を有する4本鎖PEG(PEG-OA)、開始剤(LAP)としてLithium phenyl (2,4,6-trimethyl-benzoyl)phosphinateを、自作チャンバー内で混合し、紫外線照射(365 nm)による光架橋を行いながら超音波振動素子(1 MHz)を用いて音響波を照射した。得られたゲルの構造を、目視および共焦点顕微鏡を用いて観察した。また、原子間力顕微鏡を用いた硬さ測定や、体積膨潤の速度・異方性等の評価を行った。 CHPナノゲルとPEG-OA、開始剤の混合溶液に紫外線と音響波を照射すると、ローダミンの蛍光色に由来する赤い縞模様が目視により観察され、溶液全体がゲル化した。紫外線照射による光重合反応が進行することで、ナノゲルがPEGを介して架橋し、マイクロサイズになった粒子が音響波によってトラップされ、再び光架橋によって全体がゲル化したと考えられた。振動周波数1 MHzの素子を用いたとき、縞の間隔は水中における音響波の半波長(750 μm)とほぼ等しかった。また振動周波数が2MHzの場合は、縞の間隔はこの半分であった。得られたゲルを共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、ナノゲル粒子が集積して縞を形成していることが確認された。また、原子間力顕微鏡を用いて得られたゲルの膨潤状態での局所固さ測定を行った。その結果、縞の部分と縞でない部分のヤング率はそれぞれ約43 kPa、約18 kPaであり、ナノゲル粒子が集積している縞の部分が固いことが分かった。また双方のゲルを乾燥させ、水を加えた際の膨潤挙動について経時的に評価した。その結果、膨潤速度は音響波を照射したゲルの方が遅いことが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超音波振動素子を1個用い対向して反射板を置く簡易な配置で、CHP/PEGハイブリッドゲルの調製を行ったところ、CHPの周期的濃淡パターンを有するCHP/PEGハイブリッドゲルを得ることができた。当初はチャンバーとして光散乱測定用の汎用マイクロセルを用いていたが、音波の伝達効率、使用する液量、得られるゲル形状、ゲル化効率、観察の困難さ等の面から、スライドガラスとシリコンゴムシートを組み合わせて自作した薄型チャンバーに変更した。また超音波振動素子を安定した出力が得られるものに変更し、素子の個体差による実験結果のばらつきを回避した。これにより、明瞭なCHPの周期的濃淡パターンを有するCHP/PEGハイブリッドゲルを安定して得ることが可能となった。 得られた周期的濃淡パターンを有するCHP/PEGハイブリッドゲルの局所的な固さを原子間力顕微鏡により評価したところ、CHPの粗密を反映した固さの違いが見られた。広い領域に縞状構造を有するゲルを得られるようになったことで、局所的な固さ測定といった微小スケールの物性だけでなく、乾燥状態からの再膨潤速度といったマクロな挙動に関しても、縞構造の有無による差異を観察することができた。 また異なる振動周波数の定在波下でCHP/PEGハイブリッドゲルの調製を行ったところ、縞間隔が予想通り変化したことから、得られる濃淡パターンが超音波の波長により制御できることが示された。 さらに超音波トラップに関する予備検討を行い、興味深い結果を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、超音波トラップ中でのCHP/PEGハイブリッドゲルの調製を行う。水平方向に広い領域でパターンを形成するだけでなく、鉛直方向についても厚みのあるパターン化CHP/PEGハイブリッドゲルを調製するために、チャンバーの材質や形状、超音波振動素子の配置、振幅、試料濃度など、条件検討を行う。得られたパターン化CHP/PEGハイブリッドゲルについて、共焦点顕微鏡による微細構造観察のほか、レオメーターを用いた粘弾性測定、原子間力顕微鏡を用いた局所力学測定など、ゲル物性について調べる。またタンパク質を取り込み徐放することが可能であるCHPナノゲルの特性を生かした、バイオ分野への応用展開に関しても検討を行う。 2個の超音波振動素子を用い、2軸超音波トラップ装置の開発を行う。どのような2次元トラップ場が形成されるか、ポリスチレンラテックス粒子を用いて確認し、粒子径、分散媒、振動素子の駆動電圧などの条件を検討する。1軸の場合と同様に、超音波トラップ中におけるゲル化反応により、ハイドロゲル内部の構造を制御する試みを行う。得られた材料の評価として、目視や共焦点顕微鏡観察のほか、レオメーターを用いた粘弾性測定、原子間力顕微鏡を用いた微小スケール局所力学測定など、ゲルの構造が力学物性に与える影響について調べる。 超音波トラップがゲル微粒子分散液などに与える効果について、基礎的な研究を行い、微小ソフトマテリアルを操作する基礎技術としての可能性やほかの応用を検討する。
|
Causes of Carryover |
出力の安定した超音波振動素子の入手に手間取り、平成29年度中に研究を完了させることが困難となった。加えて、事前計画に含まれていなかった、超音波トラップのソフトマター材料への適用に関する基礎的な検討に関して興味深いデータが得られた。この結果に基づき、ソフトマテリアル操作のための普遍的な技術としての超音波トラップの可能性を十分に検討することを目的に、研究期間の延長を計画して研究費の使用を再検討したため、次年度使用額が生じることとなった。現在、超音波トラップに関する基礎的なデータが続々と集まっており、これから数ヶ月で研究の大きな進展が期待できる。 研究費の使用用途として、高額の物品としては超音波振動素子を駆動する電源の追加を計画しており、そのほか、チャンバー制作費、超音波振動素子等の消耗品や試薬の購入のほか、国内学会参加の費用を予定している。
|