2016 Fiscal Year Research-status Report
光誘起伝導性物質の電流検出型電子スピン共鳴法による機能性メカニズム解明
Project/Area Number |
15K05663
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
古川 貢 新潟大学, 研究推進機構, 准教授 (90342633)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 光誘起伝導性 / 機能性メカニズム / 時間分解ESR / 電流検出ESR |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度においては,①ハードウェア的なアプローチとして電流検出型ESR装置荷より信号を検出すること,および,②物質開発的なアプローチとして,時間分解ESR法によりTTF誘導体の電荷分離状態の起源を解明することの二つが大きな課題である. 最初に市販のダイオード(1N4007)を用いて電流検出型ESR測定法の確立を試みた.空洞共振器内に設置したダイオードのマイクロ波照射下における電流値の磁場依存性を測定することで電流検出型ESR測定を行なった.27年度までは信号を観測することが出来なかったが,磁場変調法を利用することで,ダイオードの格子欠陥に由来する微小な信号を観測することができた.このことより,電流検出型ESR信号を測定することは可能となったと言える.一方で,未だに信号強度が弱いことが今後の課題の一つである. 次の物質的なアプローチとして,時間分解ESR測定により電荷分離状態生成メカニズムの解明を試みた.27年度までに,連携研究者の合成した連結型TTF誘導体の固体試料における時間分解ESR測定により,電荷分離状態に由来する信号を得た.本年度は,連結型TTF誘導体の溶液試料,および,TTF,ニトロキシドラジカル単体の時間分解ESR測定を行ない電荷分離状態の起源を調べた.TTF単体,およびニトロキシドラジカル単体,および連結型TTF誘導体において,時間分解ESR信号を全く観測できなかった.この結果は連結型TTF誘導体の単分子における電荷分離は起こらないことを示唆している.また,この溶液試料の溶媒を乾枯させると,電荷分離状態に由来する信号が復活することが確認された.さらにTTFとニトロキシドラジカルとを混合した固体においても電荷分離状態に由来する信号を観測した.このことより,電荷分離状態は分子間電子移動により形成されたとことを明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
装置開発については,H27年度までにソフトウェア開発,H28年度までに信号観測まで行うことができ,およそ順調に進んできたと言える.信号観測という点でもう一工夫が必要ではあるが,最低限の目標には到達出来ていると言える. 物質開発的なアプローチとしては,H27年度までに連結型TTF誘導体の電荷分離状態を観測し,H28年度には分子間電子移動に由来するところまで明らかにすることができた.この結果は想定していなかった結果である.新たな機能性物質として捉えることができ想定以上の結果と言える.本年度は,この新規機能性メカニズムの解明についても検討する予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
装置的なアプローチとして,本年度は市販ダイオードを利用して電流検出型ESR信号の観測を行なってきた.格子欠陥に由来する信号観測はできたものの信号強度が弱いのが課題である.そこで本年度は,プリアンプを検討し直すなどの措置を講じて,よりS/N比の高い信号を観測出来るようにする予定である. 物質開発的なアプローチとしては,連結型TTF誘導体における光誘起伝導性は,電荷分離状態が関与していることを明らかにしてきたが,本年度の成果として,電荷分離状態が分子間電子移動に由来していることが明らかになった.その中で,TTFとニトロキシドラジカルの混合溶液の溶媒を乾枯させるだけで電荷分離状態が観測されることが明らかになった.そこで,新たな分子間電子移動による電荷分離状態を解明することを目的に,TTFとニトロキシドラジカルの混晶を作成し,結晶構造解析および時間分解ESR測定を行なう予定である.これにより,結晶構造と電荷分離状態との相関から,分子間電間分離状態のメカニズムの解明を試みる予定である. 本年度の後半では,連結型TTF誘導体もしくはTTF―ニトロキシドラジカル混晶の電流検出型ESR測定にもトライし電荷分離状態のメカニズムの解明を試みる予定である. 得られた研究成果は,分子科学討論会,電子スピンサイエンス学会,春季年会などで発表する予定である.
|
Causes of Carryover |
予測していなかった新規な物性が観測されたため,測定に時間を要した.そのため,予定していた,試薬およびESR試料管の使用料金が,わずかに残った.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度にH28年度に予定していた測定を行うことで執行する予定である.
|
Research Products
(6 results)