2016 Fiscal Year Research-status Report
ビスマス系非鉛圧電セラミックスと電極との反応・拡散に関する研究
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15K05667
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
永田 肇 東京理科大学, 理工学部電気電子情報工学科, 准教授 (70339117)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 非鉛圧電セラミックス / 電極 / 拡散 / 反応 / 低温焼結 |
Outline of Annual Research Achievements |
圧電セラミックスは様々な電子機器に幅広く使用されていが、このほとんどが地球環境に有害な鉛を含んだPb(Zr,Ti)O3 (PZT)を主成分としている。近年、環境負荷低減の観点から非鉛圧電材料の開発が強く要求されている。非鉛圧電材料の中で比較的圧電性の大きいものは、ペロブスカイト構造で、(Bi1/2K1/2)TiO3 (BKT)、(Bi1/2Na1/2)TiO3 (BNT)などが注目されている。一方、これらの圧電材料を電子デバイスに用いる場合、銀(Ag)やパラジウム(Pd)といった電極を用いる必要がある。また、用途によってはセラミックスと電極の共焼成が必要な場合もある。その際、電極剤と圧電材料との反応や拡散といった問題は、素子の性能や信頼性に強く影響を及ぼすため、たいへん重要である。そこで、本課題研究ではBi系ペロブスカイト構造強誘電体セラミックス中へのAg電極の拡散挙動を評価した。 これまでに、BKTおよびBNTセラミックスに対してAgの熱拡散処理を行った後、その拡散プロファイルやイオン像を2次イオン質量分析計(SIMS)を用いて測定した。その結果、Bi系ペロブスカイト中へのAgの拡散は、PZT系と近い挙動を示すことを明らかになってきた。この結果は、Bi系セラミックス中へのAgの拡散や反応を抑制する必要があることを示しており、これらのセラミックスの低温焼結化が求められることがわかった。そこで、焼結助剤の添加により、BKTやBNTセラミックスへの低温焼結化とその時の電気的諸特性評価を行なった。その結果、BKTセラミックスではLiイオンが、BNTセラミックスではCuイオンを添加することにより950℃程度で高密度セラミックスが作製できることがわかった。従来の焼成温度に比べて100~200℃程度の低温焼結化が実現されたことから、これらのイオン添加が有効であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度の本課題研究結果から、Bi系ペロブスカイト型強誘電体セラミックス中へのAgの拡散や反応を抑制する必要があることを明らかとなった。電極材料の反応や拡散といった問題は、共焼成時の焼成温度が大きく寄与すると考えられるため、これらの問題の改善・解決にはセラミックスの低温焼結化は欠かせないと考えられる。Bi系強誘電体セラミックスで高密度試料を得るためには、一般にBNT系では1150℃程度、BKT系では1050℃程度の焼成温度が必要であることが知られている。本研究課題では主に一般的な出発原料からの通常の固相反応プロセスで低温焼結させることを主眼においているため、2016年度は焼結助剤(Li2CO3やCuOといったガラス成分)の添加による低温焼結化を試みた。また、焼結助剤を添加して低温焼成した高密度BNT及びBKTセラミックスを対象に、様々な電気的特性評価を行なった。 Li, Si, Bi, Cuを置換または添加したBKTセラミックスを作製したところ、KサイトをLiイオンで置換したBKTセラミックスで顕著な低温焼結化が見られ、970℃の焼結温度で90%以上の相対密度が得られることがわかった。一方、BNTセラミックスでは、CuOの添加または置換によって、950℃程度まで低温焼結化が可能であることがわかり、従来の焼成温度に対して200℃程度の低温化を実現した。また、CuOを置換して低温で焼成したBNTセラミックスの圧電的諸特性は、無添加のものと比べても同程度の性能を示したことから、電気的特性の劣化を抑えて低温焼結できることがわかった。これらの低温焼結化の成果は、Agの反応・拡散を抑制する効果が期待されるだけでなく、高価なPd電極の使用比率を低減できることが期待され、Bi系非鉛強誘電体セラミックスの実用化に向けてたいへん貴重なものである考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は主に、これまでの研究結果から抽出された課題や、やり残した研究課題に対して取り組むことを考えている。 BKTセラミックスでは、Liイオンの置換によって高密度セラミックスの低温焼結が可能であったが、その強誘電・圧電特性を測定したところ、無置換のBKTセラミックスに比べて性能を十分に引き出せない(性能が劣る)ことが明らかとなった。強誘電体の分極反転挙動が異なっていたことから、BKT系セラミックス中の酸素欠陥量や分布の違いが原因として考えられる。これらの原因の解決には、欠陥制御が重要と考えられることから、焼成中の雰囲気制御や急冷処理(クエンチ処理)などが有効であると考えられる。そこで、BKTについては、これらの手法を駆使して、Li置換型低温焼結BKTセラミックスの電気的諸特性の改善を行う。 BNT系セラミックスでは、CuOの置換により低温焼結化と電気的諸特性の維持を両立して得ることができたため、実際の応用で重要となるBNT系固溶体セラミックスへの展開を図る。また、Cuは半導体プロセスにおいて敬遠される元素であるため、他の焼結助剤(例えば、Li, Ni等)について引き続き検討を進める。 さらに、低温焼結にともなう酸素欠陥量の評価などを定量的に行うため、ホットプレス法を用いて低温焼結したBNTセラミックスを用いて、SIMSでの酸素同位体拡散測定を行う。これらの研究を通じて、Agの拡散挙動や低温焼結、それに伴う酸素欠陥の低減や電気的性能の関連を総合的に検討することにより、本研究課題のまとめを行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(B-A)は、3,239円と大きくなく、端数調整の不備により発生したものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額(B-A)は、3,239円と大きくなく、物品費に組み込んで使用予定。
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