2015 Fiscal Year Research-status Report
ナノカーボン複合構造体の力学的・熱的特性の原子論的解明と制御
Project/Area Number |
15K05674
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
新谷 一人 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (00162793)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ナノカーボン複合構造体 / グラフェン-CNT複合フィルム / リバーグラフェン / コロネン内包CNT |
Outline of Annual Research Achievements |
●グラフェンシートの間に単層カーボンナノチューブ(CNT)を平行に挿入して1層複合フィルムと2層複合フィルムの準二次元モデルを作成し、集中荷重を印加してインデンテーションシミュレーションを行った。その結果、荷重が大きくなると1層複合フィルムでは軟化が2層複合フィルムでは硬化が起こること、その差異は2層複合フィルムと1層複合フィルムのヤング率の大小に起因しており、2層複合フィルムでは荷重が大きくなるとフィルムの伸びが小さいため荷重直下のCNTの移動に伴いCNT列の圧縮変形が生じるが、1層複合フィルムではグラフェンが伸びることによりCNT列の圧縮変形が生じないためであることが分かった。 ●双晶グラフェンの結晶粒界上に単層CNTを配置したリバーグラフェンのモデルを作成し引張シミュレーションを行った。CNTは粒界に対して垂直に配置した。CNTの長さを10nmと20nmの2種類、本数を0、1、2、3とした合計7種類のモデルを作成した。その結果、低温ではCNTの本数が多くまたCNTの長さが長いほどヤング率と引張強さが大きくなること、高温では低荷重でグラフェンの炭素‐炭素結合が切れるがその場合でもCNTによる補強が有効であることが分かった。 ●共役勾配法によりコロネン内包CNTの安定構造の計算を、分子動力学法によりコロネン内包CNTの形成シミュレーションを行い、直径が1.35nm~1.69nmの単層CNTに対して次の結果を得た。CNT直径が小さい場合には、コロネン分子はCNT軸側に傾斜し相対的にすべることにより、CNT直径が大きい場合には、コロネン分子は傾斜せず相対的に回転することにより、中間的なCNT直径の場合には、コロネン分子は傾斜、すべり、回転によって安定な積層構造を形成する。コロネン積層の平均傾斜角は、CNT直径が1.52nmよりも小さな範囲においてCNT直径の増加とともに単調に減少し、CNT直径が1.52nm以上になるとほぼ0°となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書に記載した平成27年度の研究実施計画のうち、 ●第一の項目であるピラードグラフェンの熱伝導度の計算については、構造の複雑さのためフォノンの局所状態密度解析において明確な傾向を示す結果が得られず、現在のところ解決策を模索中である。当面、対象を変えて、非対称形状のグラフェンナノリボン(GNR)の熱伝導度の計算を行う予定である。今年度は、第一の項目の代わりに、交付申請書の平成28年度の研究実施計画の第二の項目として記載していたグラフェン‐CNT複合フィルムのインデンテーションシミュレーションを行い論文を発表した(研究発表(平成27年度の研究成果)、〔雑誌論文〕の1件目)。 ●第二の項目であるコロネン内包CNTの安定構造の計算は予定どおり行った。平成28年度の研究実施計画の第一の項目に記載の内容も一部前倒しで行い、結果を論文として発表した(研究発表(平成27年度の研究成果)、〔雑誌論文〕の2件目)。 ●第三の項目であるリバーグラフェンの力学的特性の計算は予定どおり行い、結果を学会で発表した(研究発表(平成27年度の研究成果)、〔学会発表〕の3件目)。
|
Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記載していた平成27年度の研究実施計画のうちで実施不可能であった項目と平成28、29年度に実施する計画であった項目のうちのすでに前倒しで実施した内容とを考慮して、当初の計画を下記のように変更する。 ●非対称GNRの熱整流特性解析:非対称形状を有するGNRの熱整流特性を調べる。GNRの形状を台形型あるいはT字型とし、GNRの一端を熱浴、他端を冷浴として熱流束を与え、温度勾配が安定するまでエネルギー交換を行う。GNRの幅が大きい部分から幅の小さな部分へ向かう方向とその逆方向に対してそれぞれ熱伝導度を求める。フォノンの局所状態密度解析を行い、熱整流機構の解明を目指す。 ●ピラードグラフェンの硬さ解析:ピラードグラフェンのインデンテーションシミュレーションを行い、硬さに及ぼす幾何学的パラメータの影響を調べる。2枚のグラフェンシートの間に4本のCNTをシートに対して垂直に結合したピラードグラフェンモデルを作成し、対面角度136°のビッカース型ピラミッド圧子によるインデンテーションを行う。硬さの計算には Oliver の式を用い、ピラードグラフェンの硬さがCNTの型、直径、間隔、温度にどのように依存するかを調べる。 ●CNT内多環芳香族炭化水素分子積層の構造解析:コロネンあるいはスマネンの雰囲気中にCNTを配置して、それぞれの分子がCNTに内包される過程を追跡し最終構造を調べる。コロネン積層構造に対しては平成27年度にすでにシミュレーションを行い論文としてまとめてあるが、より詳細なシミュレーションによる検証を行う。CNT断面は初期の円形から楕円形に変化することを考慮して、CNTの初期直径と変形後の楕円形断面の短軸直径、コロネン(あるいはスマネン)分子の傾斜角とCNT壁面との距離の関係から、CNTの初期直径とコロネン(あるいはスマネン)分子の傾斜角の関係を求める。
|
Causes of Carryover |
当初の計画では、シミュレーションデータが膨大でありその処理が複雑であることを予想して、データ処理に人件費・謝金を使用する予定であった。しかし、データ処理量は予想外に少なくかつ順調に進行し、敢えて人的支援を必要とせず、結果的に人件費・謝金が不要であったために、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度購入予定のワークステーションの性能は、当初、3年間の全体予算を考慮して低めに設定してある。可能であれば、ワークステーションはより高性能なものが望ましい。したがって、次年度使用額を、当初予定していたものよりも高性能なワークステーションを購入するために使用する。また、当初予定していたよりも多くの研究成果が見込まれるため、成果発表旅費に充当する。
|
Research Products
(5 results)