2016 Fiscal Year Research-status Report
蛋白質吸着挙動の解明による低摩擦維持機構を有する人工関節摩擦面の評価
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15K05765
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中嶋 和弘 九州大学, 工学研究院, 助教 (70315109)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 蛋白質吸着 / 人工関節 / 境界潤滑 / ゲル膜 / 生体関節液 / アルブミン / グロブリン |
Outline of Annual Research Achievements |
人工関節材料上に吸着した蛋白質の摩擦環境下における摩擦挙動について測定した.生体関節液に含まれるアルブミンとグロブリンはそれぞれ摩擦挙動が異なることが明らかとなった. 各蛋白質を含む溶液中において電気化学測定と摩擦力測定を行った。電気化学測定から蛋白質の脱吸着挙動を算出したところ,摩擦特性との関連は少ないことが明らかとなった.また,摩擦特性は接触面圧に大きく影響されることが明らかとなった.アルブミン溶液中においては0.001MPaから5MPaまで接触面圧の増加に伴い摩擦係数が減少する傾向がみられた.接触面圧の増加と共に摩擦係数が減少することからアルブミンはこの接触面圧範囲において流体潤滑膜様の特性を持つことが明らかとなった.流体膜の特性を吸着幕が示したが,流体として表面に存在することは考えにくいため,アルブミンがゲル膜,水和膜として存在することが考えられる.一方グロブリンは接触面圧0.001MPaから0.3MPaの範囲で面圧の増加と共に摩擦係数が増加する傾向がみられた.0.3MPaから5MPaでは面圧の増加と共に摩擦係数が減少することが観察された.グロブリンは面圧により摩擦特性が変化していることが明らかとなった.接触面圧5MPa以上においてはアルブミンとグロブリンの摩擦特性に差異は観察されず,面圧の増加と共に摩擦係数が増加することが観察された.この接触面圧においてはアルブミン,グロブリン共に固体膜的な挙動を示していると考えられる.接触面圧の増加は蛋白質の変性を引き起こしていると考えられ,接触面積の増加と共に変性程度が増加しCoCrMo合金表面への吸着力が増加するために摩擦抵抗が増加していることが考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
人工関節のトライボロジー特性を吸着膜で最適化するために必要な吸着蛋白質のトライボロジー特性を歩行条件を模擬した接触面圧条件において明らかにした.蛋白質吸着膜による摩擦摩耗低減効果は2種の蛋白質が層状構造を形成することで発揮されることは以前より明らかになっているが,単一成分での摩擦摩耗低減の可能性を示したことが評価できる. 摩擦条件下での蛋白質脱吸着挙動の報告はこれまでほとんどなく,生体関節液成分が摩擦摩耗に影響することを指摘するだけでなく,蛋白質の摩擦摩耗低減メカニズムについて考察していることは他の研究において例がなく,この点においても評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかになった単一蛋白質成分系の潤滑液中における摩擦挙動のメカニズムを明らかにするために,吸着蛋白質の変性について測定を行う.この測定により摩擦刺激によって引き起こされる蛋白質の変性と摩擦の関係について明らかにする.これにより摩擦を低減するための人工関節の使用条件,設計条件が明らかになることが期待される. また,生体関節液は多成分から構成されるため,生体関節液を模擬した模擬関節液を使用して摩擦特性および脱吸着挙動を測定し,臨床人工関節における摩擦摩耗特性の改善案について提案する.
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